資源採掘の現場では地面に掘った立坑から注水が行われますが、その水の影響で地震が誘発されることがあります。注水による誘発地震の発生過程を調べるために、寒天(ゲル)によって地下環境を模擬し、光弾性という技術で応力状態の可視化に取り組んでいます。
寒天という透明かつ加工がしやすい素材で自由な形状の試料を作り、注水後の応力分布の時間変化を観察しています。実験の結果、注水時に孔口周辺に高い応力がかかる様子や、断層面上で亀裂が進展する際に亀裂先端に応力が集中する様子が観察されました。実際に起きた誘発地震の既存研究とも比較し、実験室と自然環境との2つのスケールを行き来しながら研究しています。
学生時代から資源採掘と誘発地震の関係に関心を持っていました。資源採掘は現代社会の維持にとっては必要不可欠ですが、それにより安全な生活が脅かされることがあってはならず、安全性と採掘のバランスの重要性を感じていました。元々は岩石を用いた実験をしていましたが、これには高価な機械が必要でコストがかかります。ある日、研究室ゼミで力を可視化して見る光弾性という方法があるという話を学生にした際に、そうだ、と思いました。光弾性は5-60年前によく利用されていた手法で近年の研究は下火ですが、力の時空間変化を自分の目で直接見ることができる面白さから、現在の研究を始めました。
現実の地震発生環境では、様々な要因が積み重なって複雑な現象を引き起こしています。これらを一つ一つの要素に分解し、その役割を検証することで、何が地震発生の鍵となっているかを解き明かすのが、実験研究の醍醐味です。地球科学分野では岩石試料を用いた実験が主流ですが、直接目で試料内の様子を見られず、センサを貼った点のデータから内部の様子を推定する難しさがありました。そのような点のデータと、現在行っている、広い領域を視覚的に捉えられる光弾性実験の成果が結びついていくことを期待しています。
誘発地震の研究では、注水量や水圧が重要なデータの一つと考えられています。現在の実験では手で水を入れていますが、自然スケールの観測とより深い比較を行うために、注水をコントロールできるようなシステムの導入や水圧計測を考えています。現在は最もシンプルな地下環境を模擬していますが、実際の地下には地層の境界や多数の弱面があるため、スケールアップしてそのような環境も模擬可能にし、さらに広い領域の応力変化が見られるようにしていきたいと考えています。
〈謝辞〉
本研究は社会基盤工学専攻 地殻開発工学分野の福山英一氏、大嵜雅人氏、立命館大学の平野史朗氏の協力のもと行われました。