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水の流れをモデリングし、社会が将来の洪水リスクと共存する仕組みをつくりたい!

RESEARCHER
白川流域(熊本県)における流域の地図。森林の水の流れや土壌の水分量等を確認しながら、都市を流れる本川の水量と比較して予測を精緻化する。 赤丸の地点で観測された降水量をシミュレーションモデルに入力して、黒い四角の地点で観測された河川流量と合うように未知のパラメータ(土壌特性等)を特定した。

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実際の浸水域(左)とモデル計算値(右)。 2012年の洪水時に実際に浸水したエリアと現地で計測した水深(黄色)とモデル計算値を比較し、近いシミュレーション結果を得られていることを確認した。 本研究は、シミュレーションを主軸に進めているが、現象・現場を知ることで何をモデル化すべきかがわかる。

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流域単位で検証された洪水予測モデルを拡張した日本全国版の予測モデル。最新の大規模アンサンブル気候変動予測データベース(d4PDF)を入力して、東日本全体で最も大きな洪水をもたらす台風時の河川流量を計算した。地球全体で気候モデルから得られる平均気温や降雨量と実際の観測値とを比較し、実際に大雨が降った際の気象データとシミュレーション結果を検討し、気候予測の誤差を修正しながら洪水の将来予測を精緻化していく。

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淀川流域中流部の支川(桂川、宇治川、木津川)の合流部に広がる京都盆地を対象に、洪水リスクを予測した結果をもとに、洪水リスクの低い地域を優先的に都市開発するシナリオを想定し、その際の人々の居住地をシミュレーションした結果。堤防のかさ上げやダムの増設等と併せて街づくりによる居住地の変化を予測し、街づくりが地域全体の洪水リスクにどのように影響するのかを分析している。

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淀川流域中流部の支川(桂川、宇治川、木津川)の合流部に広がる京都盆地を対象に、 90 mごとに500 年に一度の浸水深を計算し、GIS(地理情報システム)上で個人の資産額と統合して洪水による被害金額を予測した結果。

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日本全国における洪水予想モデルに気候変動予測データ(d4PDF)を入力して得られた将来の洪水リスクのデータ。 将来の洪水リスクが何倍になるかを表している。横軸が水系名(右に行くほど南の河川流域)、縦軸が変化倍率を表す。西日本全体では1000年に一回の洪水が、温暖化対策を全く施さなかった場合、21世紀末には1.5倍になるという結果が得られた。

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現在の河川の堤防は、地域のより、100~200年に一度の洪水といったリスクを想定して設計されている(左図(a))。洪水予想モデルにより、堤防の設計レベルを超える水害が何年に一度来るかを予想した。温暖化対策を全く施さなかった場合、21世紀末には数十年に一度になる(右図(b))。洪水リスクを定量的に評価し、将来それが気候変動などの影響でどのように変わっていくのか、それにどのように備えていくのかを検討することができる。

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どんなタネ?

世界中の洪水危険地域とその程度を明らかにし、将来の洪水リスクと共存する仕組みを作る研究をしています。まず数km2程度の試験流域を対象に、雨が森林の土に浸透して河川に流れ込んで増水するまでの水の流れをモニタリングしてシミュレーションします。得られた知見をもとに日本全国の洪水予測モデルを開発し、世界中で計算される気候変動予測データを用いて洪水への影響を予測します。さらに、地域スケールの洪水予測モデルと経済モデルを開発して特定地域の水害リスクや被害金額を計算し、都市開発が洪水リスクに与える影響を分析します。最終的に、地球全体の気候から山地、河川、都市、社会までを一気通貫で捉え、将来見込まれる洪水リスクに備えられる社会に貢献することを目指しています。

なぜ研究を始めた?

もともとは気象に興味があり、理学部に関心がありましたが、学部で選択した土木工学を学ぶ中で、社会に近いところにも面白さを感じるようになりました。水文学の研究室で災害現場や災害ボランティアに行くようになり、防災研究が社会や人々に貢献するという実感を得ました。

洪水予測も水文学のサイエンスの1つですが、水と社会のインタラクションを学問として扱うSocio-Hydrologyという国際的な流れもあり、数値シミュレーションに研究の楽しさを見出しながらも社会を横目に見た研究にも取り組むようになりました。どのようなプロダクトを出すと本質的な影響があるのか、社会にどのように取捨選択されるか、それを考えながら研究することにやりがいを感じています。

なにを変える?

洪水予測を広く捉えた研究が進み、社会で実装されていくと、一番変わるのは「縦割り」だと思います。堤防や橋をつくるハード対策と、街づくりのソフト対策の双方が、洪水リスクを減らす対策として同じ土俵である程度考えられるようになるのではないでしょうか。また、現在のリスクと将来のリスクのいずれもがより明確に見えるようになると、行政だけでなくより多くの市民が状況を理解したうえで意思決定できるようになることも期待します。

それとあわせて数理モデルの技術開発が進み、水の流れや洪水に対する理解が高まり、サイエンスとしての水文学と防災社会が両輪で発展していけば嬉しいと思います。

なにが必要?

一つは、データ、特に地盤の下の情報が不足しています。森林や土壌や土質材料でできた河川堤防などについてさらに得られることが必要です。一方で、様々な機関で出された情報をうまく収集し、またビッグデータを扱う技術の整備も重要になってきています。

二つめは、長期間の観測研究を続けられる仕組みです。現地観測は数年以上継続する必要がありますが、現在は2年分の予算で活動しています。すぐに成果が得られなくても続けられるための、研究予算の在り方を考える必要があります。

三つ目は、社会学や都市計画など、いわゆる文系の分野とのコラボレーションです。用語も違い、まず対話からはじめることが必要です。さらに機会をつくり、スムーズに研究が進められると良いと思います。

VIDEO MATERIAL
① 信楽試験地(滋賀県)を対象に豪雨時の森林斜面をモニタリングした様子。 ② 東日本全体の洪水予測結果(世界気温が4℃上昇した時に日本で最も大きな洪水をもたらす台風)。✕印は河川の水量が容量を超えて溢れた場所を表す。 ③ 都市における災害リスクシミュレーション。特に青く囲んだ地域で、洪水リスクの高いエリア(黒や灰色)から小さいエリア(白色)に多くの住民(赤丸)が引っ越している。
INTERVIEW
桂産直便
水の流れをモデリングし、社会が将来の洪水リスクと共存する仕組みをつくりたい!

2023.02.06

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