可視性分析を用いた建築空間計画の研究をしています。共有空間と個室が存在する空間について、可視領域(特定の視点から見える領域)、視深度(見える距離)とディープラーニングを用いて、空間の「内側」と「外側」があいまいな場所を記述しました。また、高齢者居住施設の共有空間について、常に全員を見守りたい介護者と自身の居心地を良くしたい利用者の要望を踏まえて、利用者にとって適切な共有空間の可視性が確保できる空間を提案しました。設計者の思考を可視化し、また空間の数値化により設計の参考になる指標ができることに可能性を感じています。
4回生の頃に吉田キャンパスから桂キャンパスに移りました。研究室に閉じこもってしまう桂キャンパスでは、空間によって他人との関係が希薄になってしまった感覚がありました。この問題意識からコミュニケーションとアウェアネスが発生する場所をテーマに卒業設計を行い、修士でもオフィス、ワークスぺースを対象に研究を行いました。
建築では、建物の強度や空気の流れなど構造・環境に関する分析はありますが、「見える、見えない」という分析は多くありません。「見える・見えない」問題の解決により、アウェアネスやコミュニケーションが生まれる空間を設計できるのではないかと考えました。
1980年代に、情報分野のビデオ会議の研究などで、リアルな空間にあってビデオ会議の場にないものとして「インフォーマル・コミュニケーション」が指摘されました。「お互い何をしているか」を知ることが重要で、コミュニケーションをするためにはまずアウェアネスが必要であるという提案でした。建築でも、空間より前にコプレゼンスやアウェアネスを適切に把握して設計することで、人間関係や組織の結びつきがより良いものになるのではないかと考えています。
かつて京大の建築学専攻では、設計の実践をしながら建築論に取り組むことが行われていました。設計することと研究することが、もっと結びついていた印象があります。現在は、設計は企業や個人の事務所で行い、大学では教育に専念するという感じになりつつありますが、大学に所属する学生や研究者が設計にもっと関わり、論文を書くことと同時に、設計の成果が実績になっていくことが必要だと考えます。このような観点から、この「桂の庭」の展示の設計ひとつをとってみても、良い実践の場になると考えます。