現代風景に溶け込む地域性を探求しています。近代以降、非計画につくられた市街地の町並みは生活感に溢れ、雑然としていて、あまりポジティブに評価されることはありません。しかし庶民的な町でも建物や道には、その地域の人たちの営みが刻まれています。私は京都市伏見区の中書島南新地などを対象に、建物の実測調査と使用者へのインタビューを行ってきました。店舗や住宅の改修や、看板の取り外しなど「部分変更の跡」に注目し、町並みの変化の中にその地域の真正性を見出しています。そして何気ない風景や建物の魅力を伝えています。
風景のブランディングに対する違和感を抱いたことがきっかけです。風景は操作するものではなく、自然や人の営みを反映したものであるはずです。観光地・京都らしい景観を残すことも重要ですが、一方で都市周縁部(場末の町)にも、その町ならではの文化変容があります。それを画一的な景観計画によって覆い隠すのではなく、いま住んでいる人たちの立場や思いも尊重しながら、個別の変更を許容する持続的な町並みづくりを可能にしたいと考えています。そのために、まず「町並みにおける変化の地域性」を評価する方法を模索しています。
「跡形もない」という言葉がありますが、町の遍歴として現存する「跡形」を評価していくことで、景観を害すると問題視されてきた庶民の町並みをより細やかに扱えるようになると思います。それは従来の分かりやすいその地域らしさを求める観光の目的や概念をも変えるかもしれません。世界中に遍在する近現代の庶民的な町への見方が変わると思います。私は設計も行うので、改築の際に建物の地域性が現れている部分を残す提案もしています。新しいものを造るときに軽視されがちな細かな地域性を拾い上げ、未来につないでいきたいです。
建築物のように形あるものだけでなく、そこに刻まれた人の営みも一緒に捉えていくためには、文化人類学や社会学の視点も大切だと感じています。今後は、そうした分野の人たちとも一緒に地域調査を行い、現代風景の解釈を行っていけたらと考えています。また、地域で活動するアーティストの方々は、行政や住民、研究者とはまた違う角度で地域や空間を捉えていると思います。対談などを通じて、新たな地域を見つめる視点を得られたらと考えています。