日本では70万以上の橋梁が老朽化しており、目視による点検がされていますが、点検のできる熟練技術者が不足しています。近年、橋梁にセンサーを取り付けモニタリングする「直接法」もありますが、コストが高く多くは採用されていません。
私が研究する「移動車両点検手法」は、橋梁の上にセンサーをつけた車両を走らせ、車両の応答を解析し、橋梁の振動特性や損傷の有無を見つけ出すという手法です。低コスト化と機動性の向上とともに、走行中に連続的な情報の収集ができることから、橋梁設置よりも高い空間分解能が期待できます。
国立台湾大学時代は、車両ー橋梁連成系の振動の研究をしていました。特に、車を走行させた時の橋梁の応答に着目し、その応答がどこまで増幅されるかを調査していました。直接法による橋梁のモニタリングが盛んになりはじめたころ、車の応答に関心をもち、車の振動の中に橋梁の振動情報が含まれていることに気づきました。世界の主要な国々で橋梁の老朽化や技術者不足の問題があることは知っていたので、ひとつの解決法として移動点検への可能性を感じこの研究に着手しました。
目視点検が主流の今、直接法は十分に普及していません。橋梁に一定間隔でセンサーを取り付ける直接法は、センサーの数も多くメンテナンスも必要で、精度は高いがコストがかかるという問題があります。しかし移動車両点検手法を補助的に採用すれば、センサーをつけた一般車両を走らせるだけで点検が可能なため、点検の頻度を高められるという利点があります。従来の直接法の方が精度は高いため、様々な手法を複合的に駆使することで、事故を未然に防ぐための維持管理ができ、都市の安全を守ることにつながると考えます。
現場のデータの蓄積が課題です。実験室ではデータがとれましたが、これからは現場実験による検証データが必要です。ほとんどの橋梁は使われているため、実験には通行を停めるなどの対応が必要になり、機会が乏しい状況です。たとえば、使用を追えてこれから撤去するという橋梁があれば、積極的に実験したいと思います。また、センサーの技術向上も必要です。今は有線のセンサーですが、無線のセンサーでクラウド上にあるデータベースと直接照合できると、走行しながら遠隔でリアルタイムの橋梁の状態を知ることができます。