表面・界面が関わる現象について、特に液体と固体との界面に注目し、原子レベルで解析するための原子間力顕微鏡(AFM) の開発に取り組んでいます。このAFMの特徴は、水晶振動子をフォースセンサとすることで不透明な液体に適用できること、また従来のAFMよりも高粘度の液体を得意とするところです。研究対象として、溶けた金属、リチウムイオン電池などの電気化学界面、潤滑油の3つを対象としています。このAFMにより、溶けた金属と個体の金属の界面で合金結晶が成長する反応を、原子分解能で初めて可視化することに成功しました。また、独自に開発した電気化学AFMにより、リチウムイオン電池の電極構造の変化を原子レベルで観察しました。さらに、高粘度液体を分析可能であるという特徴を活かし、高粘度潤滑油中での測定を実現し、油と固体の間の摩擦計測技術も開発しました。
AFMは走査プローブ顕微鏡 (SPM)とよばれる顕微鏡の一つですが、高校生の化学の授業でSPMを初めて知り、原子を並べて文字を書くという研究に衝撃を受けました。その後、大学でSPMの研究室に所属し、教員になってからは装置の開発に取り組んでいます。科学の世界はまず何が起きているかを知ることから始まります。未だ誰も見たことのない世界を探求することが楽しく、大学での研究に意義を感じています。現在対象としている電解液・金属・摩擦といった研究テーマのそれぞれに出会いがありました。例えば電気化学界面のAFM研究は、研究室の准教授の先生の専門に触れ、イオン液体の不思議な特徴に興味をもったことがきっかけでした。溶融金属の研究についても、金属を研究対象とする先生方が多い材料工学専攻であったからこそ取り組むことができたと考えています。このように、新しい現象を観察し、その発見が材料工学へ貢献することを目指しながら研究を進めています。
「見る」ことは自然科学の入り口であり、そこから全てが始まります。電極と電解液の界面で起こる反応の観察によって電池や電気化学分野の理解が深まれば、新しい電池の開発につながる可能性があります。溶けた金属の中を観察することで、溶けた金属原子のふるまいやその中での結晶成長の様子なども見えるようになってきました。それだけでなく、新たな測定技術開発によりこれまで見えなかった世界が見えることで、想定していなかった現象が発見され、そこから新しい研究にどんどんとつながっています。したがって、どこに役立つかを考えすぎるのではなく、出口を定めずに、これまで見られなかった現象を見えるようにすることで、材料科学をはじめ、科学技術の発展に貢献していきたいと考えます。
研究を進める上で「どこに役立つのか」を常に気にしてはいますが、自分で考えられる範囲は限られています。だからこそ、「こんなことができる」と発信し、特に異分野の研究をされている方々に知っていただきたいと考えています。本格的にこの技術が使えるようになったのは最近であり、様々な分野で研究をする方々に活用していただきたいです。今のところ、開発したAFMは生体やバイオ分野よりも材料分野に適していると考えていますが、われわれの想定しない使い道があることを期待しています。このAFMが得意とするのは、不透明な液体と高粘度の液体です。不透明な液体として、溶融金属に取り組んでいますが、コロイド溶液とかも面白いかもと考えています。「こんな液体あるけど見える?」と気軽にお声掛けいただけると嬉しいです。