「π共役系」の分子を使い、その中に様々な元素を取り込み、新しい光学材料をつくる研究をしています。とくに、これまであまり取り組まれていなかったゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)などの「重元素」を用いた原子価核に9以上の電子をもつ「超原子価」をテーマに研究を進めており、アゾベンゼンやアゾメチンと言われる「π共役系配位子」と組み合わせることで調査をしています。実験を通じて、超原子価化合物になるとπ共役系の電子物性が変化し色が変わり、さらに重い元素を組み合わせることで、元素ごとに変わることがわかりました。また、例えば近赤外のような長波長域に発光する、近くに寄ってきた元素が分極する、刺激応答性が高くなるなどの新しい物性が確認できました。これらを調べながら、さらに高分子化を進めることで、新しい材料開発への道筋をつけるべく研究を進めています。
学生の頃から同じ研究室で発光材料に取り組み、教員になり13族元素のホウ素を使って研究を始めました。従来は中心電子に結合する配位子が2つである2座配位子のものが多く研究されていましたが、3座配位子にしてみたら長超波長域に光を吸収することを発見しました。この時は溶液状態で発光しませんでしたが、元素を重い14族元素であるゲルマニウムやスズに変えることで近赤外領域にて光らせることに成功しました。これまで、近赤外領域の材料をつくる試みは、大変限られた例しかありませんでした。そこで、私の作り出した物質が汎用的な近赤外領域の材料になる可能性があると考え、「超原子価」「重元素」というテーマにたどり着きました。近赤外領域でよく光り、波長も選べ、しかも物性を予測して狙って作れるという、大きな可能性を見出すことができました。
重い元素を使うことで、これまで難しいと思われていた物質を、初めて作ることができる可能性があると思います。例えば、高輝度の「近赤外発光」や高感度の「刺激応答性発光」。これらの特徴を活かした化学センサーを作製することで、物質が容易に見分けられると期待しています。また、超原子価化合物は発展性が高い研究と考えています。この用語に関連したものとして「高配位」化合物がありますが、これは結合するための手が5本以上ということのみを指します。「超原子価」と言う言葉を使う背後には、超原子価化合物の特徴である分極した結合(例えば、3中心4電子結合)の存在に着目しています。超原子価化合物という表現は1960年代に提案されたものですが、近年はあまり使われない表現になってきました。光物性を通じて超原子価化合物の独自性をさらに探求し、新しい材料が作れる可能性がひらけると考えています。
計算化学による解析能力と、有機合成化学による反応開発があれば、さらに材料開発への道筋がつくれます。私は合成を行い、化合物をつくることはできます。その先に、この新しい電子物性の解析が進むと嬉しく思います。さらに、この材料は触媒としての応用も期待されますが、新しい反応開発を試していただけるなら可能性は広がります。