金属の融点に近い高温環境の材料内部で起きている物理現象を一つ一つ科学的に紐解く研究を行っています。
放射光の特長を活かした三次元・時間分解イメージング技術を駆使して、結晶・組織が産まれる動的な過程を観察し、事実に基づいて(実証的に)理解したいです。例えば、アルミニウムと銅を混ぜ合わせた合金(ジュラルミン)が凝固する様子を高速で観察すると、直感的には温度の低い領域から凝固するはずですが、温度の低い領域で成長した結晶が浮上・沈殿して温度の高い領域に降り積もり、まるで温度が高い領域から凝固するように見える現象を捉えられました。また、材料欠陥が形成する原因の一つである固液共存体(固体と液体の混合体)の変形過程を動的に観察する手法も考案し、科学的また工学的に役立つ知見も得られるようになっています。
学生の頃、配属先の研究室を決める際に各研究室が行っていたデモ実験の中で、半導体デバイスや太陽電池に使われるシリコンを凝固させる実験がありました。結晶が成長し始めた瞬間にピカッと光り、また固める際の条件で結晶の形が変わる様子を目の当たりにして「こんな面白い研究があるのか」と思い、凝固や結晶成長に関心をもちました。研究を続ける中で、現代社会の基盤材料として身の回りに当然のように在る金属材料の鋳造プロセスの工学的な課題(生産性や品質)が凝固・結晶成長における学術的な課題とリンクしていることに気がつき、今の研究を開始しました。
金属材料の鋳造プロセスのような高温環境で起きる現象はトライアル&エラーによる経験則や合理的な推測に基づいて整理されていますが、実際に何が起きているのかはよく分からないため、いわゆるブラックボックスであると言えます。放射光イメージングにより直接観察した実験事実が列挙できれば、経験則や推測では打破できなかった工学的な課題の解決につながる可能性があります。また、近年は計算機の能力の発展で鋳造プロセスの数値シミュレーションが可能となり、実装業でも活用されています。直接観察による実験事実は数値シミュレーションを検証できるベンチマークデータにもなります。実験事実に裏付けされた数値シミュレーションは現実世界を模した計算が可能となるので、材料プロセスの設計に大いに役立ちます。
学術的には、3次元データをいかに活用できるかが課題です。観察は科学研究の第一歩と言えますが、観察できたからといって即座に物理現象を理解できるわけではありません。一つ一つのデータに含まれている物理現象の本質を抜き出し理解する作業が必要です。また、3次元データには膨大な情報が内在しているはずですが、パソコンのモニタでデータを眺めても全てを捉えることはできません。例えば通販サイトでショッピングする際、掲載されている画像と実物の印象が一致しないのと同じです。最近ではVR技術が発展して三次元のデジタルデータを人間が直接観られるようになってきていますので、そういった先端技術を利用できれば、高温材料プロセスの発展に繋がると信じています。
研究室公式のYouTubeチャンネルで、他にも様々な動画が見られます。ぜひご覧ください。
Let’s solidify <https://www.youtube.com/channel/UCH-Jusv_i4Q6CL3jHyKg29g>