より自由な高分子合成を実現し、従来では作れなかったポリマー材料を生み出す研究をしています。そのために、有機合成の分野で発展したホウ素を色々な元素へ変換する手法に着目しました。ホウ素を有するモノマーをラジカル重合すると効率よくポリマーへと変換され、さらに炭素-ホウ素の結合を切断することで、ホウ素ポリマーを共通の原料として多様なポリマーを合成できることが分かりました。さらに、色々なモノマーとの共重合や制御ラジカル重合に利用できることが明らかになったほか、実験と計算の両面からホウ素のユニークな元素特性が興味深い重合挙動の鍵になっていることが示されました。
ポリマー・プラスチックは生活に欠かせない材料ですが、持続可能な社会を構築する上で大きな転換点を迎えています。そこで、全く新しい性質をもつポリマーを生み出すためにポリマーを自在に分子設計する技術が必要になると考えました。
高分子化学では、すでにあるモノマー構造をつかって、全体としてどのような鎖を作るかというマクロな観点で研究が進められます。一方有機化学は、高分子化学からすれば一つの点である小分子の特性を明らかにしたり、きめ細やかな分子設計をすることが得意な学問です。この有機化学のミクロな視点を高分子化学にもちこみ、両分野の橋渡しをすることで今までにないポリマー材料を作り出せると考えています。
現在のポリマーは、既に知られているモノマーの組み合わせで作られるため、構造パターンが限られています。例えば自然環境における分解性などを変えたいと思っても、もともとのモノマーの構造が決まっているために根本的な性質のチューニングが難しいという現状があります。もしホウ素を使って自由自在にポリマーの分子構造を設計できるようになれば、高分子化学の技術と組み合わせることで望みのポリマーを合成できます。材料を緻密に設計することで、社会的要請の変化に対応できる柔軟な高分子化学を確立できます。