カーボンニュートラルへの貢献を意識し、高温超伝導技術を利用した次世代電気機器の実現に向けて、新しい高温超伝導導体(ケーブル)の研究を行っています。
超伝導体は、交流の条件で使うと交流損失と呼ばれる特有の損失が発生してしまうため、交流損失の低減が実用化に向けた大きな課題です。また、局所的に超伝導状態が壊れることがあり、それによる熱暴走もまた大きな課題です。これらの課題を解決し、低交流損失と超伝導状態の安定性を確保するために、「SCSCケーブル」という新しい高温超伝導導体を開発し、研究を進めています。このケーブルは、交流損失を減少させるために高温超伝導線材の超伝導層を細く分割(マルチフィラメント化)し、これらのフィラメントを銅めっきして複合化し、さらにこの線材をスパイラル状に多層に巻き付けた高温超伝導導体です。数値シミュレーションや実験を通し、従来構造に比べ交流損失を約10分の1まで低減できることを実証するとともに、1 kA級の大電流化も達成しています。
近年、世界では高温超伝導を利用した核融合炉や電動航空機等の研究が急速に進んでいます。一方で、高温超伝導を実際の機器へ応用する際には、交流損失及び超伝導状態の安定性が解決すべき課題です。以前から、高温超伝導技術の実用化に向けた研究に取り組んできた中で、これらの課題を解決し、高温超伝導の普及によってカーボンニュートラルに貢献したいという思いが、研究の大きな原動力となっています。
高温超伝導の応用先は、モータや発電機などの電気機器、核融合炉や加速器と様々です。このように広く実用化されれば、さまざまな分野における制約を取り除くことが可能になります。
例えば、モータや発電機の小型化、軽量化、高効率化が可能になります。高温超伝導モータや発電機を搭載することが検討されている電動化された航空機は、これまでとは設計思想が大きく異なると考えられています。また、高磁場が発生可能でコンパクトな核融合炉は、世界におけるエネルギー供給技術を根本から変えうる可能性をもちます。医療分野の加速器への応用が実現できれば、大型で高価な重粒子線がん治療装置を小型化し、より多くの病院への普及が可能になるでしょう。さらに、高性能な加速器の実現は、ダークマターなど未知の現象を探る基礎科学にも貢献します。このように高温超伝導技術は、幅広い分野で応用でき、これまで技術的な限界のため実現できなかったことを可能にしていくことが期待されます。
現在の研究は、ケーブル単体の性能評価から、実際にコイルを製作して検証する段階へと進みつつあります。さらにその先には、実際の機器への応用が控えています。しかし、こうした段階になると大学だけで進めることは難しく、産業界や他の研究機関との連携が不可欠です。例えば、航空機、加速器や核融合炉などの装置に対して応用するためには、それぞれの装置に関する知見をもつ企業や研究機関の協力が必要になります。また、こうした実用化の段階では、技術の移転も重要であるため、この技術が多くの方々の目に触れる機会があり、関心をもっていただけるならば嬉しく思います。