プラズマは、気体が電離して電子、イオン、原子分子が混ざった状態の物質です。固体、液体、気体に次ぐ「物質の第4の状態」とも呼ばれます。プラズマは、その高いエネルギーと反応性から、半導体製造、加工・表面処理、宇宙推進、核融合などの幅広い工業分野に応用されています。私の研究では、核融合プラズマから放射される光を分光し、プラズマの温度や密度、内部で起きている現象を調べています。通常、分光では視線に沿った積分量しか測定できませんが、プラズマ中の磁場が起こす「ゼーマン効果」によるスペクトル形状変化を利用して、空間分布を測定する方法を開発しました。
様々な工業に応用されているプラズマの普遍性に興味を感じ、この分野に入りました。核融合プラズマを対象とする分光の研究は、学生時代に与えられたテーマとして始めましたが、スペクトルに隠されたプラズマの情報をどのように引き出すかを様々な観点から考えることが楽しくなり、以来、今日まで研究を続けています。
実際に発電を行う核融合炉では、放射線や高速原子の影響を受けるため、多くの計測器を取り付けることができません。このため、少数の計測器でできるだけ多くのプラズマや炉内の情報を取得することが重要です。分光は、スペクトルが多様な情報を含んでいるため理想的な手法ですが、積分量しか測定できないという制限もあります。空間分布を測定できれば、核融合炉の効果的な計測が可能になり、また、他の工業プラズマの計測にも応用できる可能性があります。
この方法では、プラズマ中に既知の磁場があるときに、視線上の各位置でゼーマン効果の大きさが異なることを利用して、積分スペクトルから空間分布を推定します。ゼーマン効果の大きさは近似的に波長の2乗に比例するため、可視光よりも高感度で観測できる近赤外光の分光実験を行っています。これまで本学の核融合実験装置ヘリオトロンJ(エネルギー理工学研究所)を用いて原理の実証を行いました。次は、発電炉に近い条件下での実証を目指し、世界最大級の実験装置であるJT-60SA(QST那珂フュージョン科学技術研究所)を使用した研究を進めています。