様々な感染症の原因となる薬剤耐性菌 (薬が効かない細菌)について、環境水を調べ、バイオインフォマティクスの手法を使って研究をしています。これまでの研究で、環境水中には薬剤耐性菌が存在するということはわかってきましたが、それら薬剤耐性菌には病原性があるのか、患者さんの病原菌と似ているかなどは、よくわかっていません。これを明らかにするために、DNA解析を取り入れた研究を行っています。
研究により、例えば世界中でパンデミックを引き起こしている薬剤耐性大腸菌が、下水中に存在することがわかりました。また、琵琶湖やその周辺の河川で薬剤耐性菌を調べた結果、新規、または珍しい薬剤耐性遺伝子を持っている菌がいることもわかりました。
もともと地球環境問題に関心があり、当初は地球温暖化に関する研究を行いたいと考えていましたが、4回生で研究室に所属し、環境水と公衆衛生微生物学の研究に興味を持ちました。環境水中の大腸菌について調べるうちにどんどん面白くなり、さらに異なった視点から研究を行うためにバイオインフォマティクスの手法を取り入れられないかと考えました。バイオインフォマティクスにより、例えば環境水中の薬剤耐性菌株と臨床分離株がどの程度似ているかが、遺伝子レベルでわかります。
2050年には、薬剤耐性菌が原因で世界中で年間1000万人が死亡すると予測されており、世界中の研究者がこの問題に取り組んでいます。主に医学分野で取り組まれてきたこの問題に、様々な手法を組み合わせ、環境水という視点から取り組みたいと考えています。
サイエンスとして面白さを感じています。新しい薬剤耐性遺伝子を発見し、新しい菌種や細菌を見つけ、突き詰めていきたいです。
また現在、環境水中の薬剤耐性菌はほぼ放置されている状態といえます。環境水には、大腸菌数という基準値がありますが、薬剤耐性菌に関する基準値はありません。将来的には、より定量的にその影響を考慮した、根拠のある薬剤耐性菌の基準値の提案ができるのではないかと考えています。
規制ばかりの方向に行き過ぎるのはよくありませんが、現在、薬剤耐性菌による感染症が問題になる中で、環境水中の薬剤耐性菌についても議論するきっかけをつくれたらと思います。
全自動でゲノム配列を即座に解析できる装置があったらよいと考えています。現在のゲノム解析にはお金も時間もかかり、例えば薬剤耐性菌1株のゲノム配列を完璧に決定しようとすれば5万円ほど、また丸1日以上必要です。技術発展があれば研究環境の改善につながります。
また現在、共同研究者の先生方と分野を超えた研究を進めていますが、引き続き、医学分野と連携をしていきたいと考えています。