地盤工学の立場から、自然災害によって損傷した古墳などの遺構の修復、保全について研究しています。遺構がどのようなメカニズムで壊れるのか、現象を理解するため、現地調査を行い、採取した土の工学的性質の評価、模型での再現実験、シミュレーションでアプローチしています。専門とするのは、水と空気を含んだ「不飽和土」の力学です。土の強度や剛性、保水性などの観点から、石敷の修復時に崩れにくい土に入れ替えたり、砂と礫の相互作用で遮水する「キャピラリーバリア」を古墳の保全に応用したりと、次の災害を見据えた予防的な保全に役立てています。
地盤工学の道へ進んだのは、自然の一部である土を数式で表せることに感銘を受けたからです。特に、地盤工学を文化財の修復・保全に役立てる研究はまだまだ珍しく、そこに魅力とやりがいを感じています。あまり報じられませんが、大雨や地震で損傷する古墳は多く、一度、古墳が崩れたり、亀裂が入ったりすると、その中に埋葬されている石室などの温湿度環境も崩れ、劣化が進みます。古典的な飽和土の力学に対して、陸上の土構造物や古墳等の文化財のような不飽和土には未だ不明な点が多く残されています。不飽和土について知見を深め、対策につなげたいと考えています。
古墳をはじめとする文化財を自然災害から守り、未来に伝えることができます。例えば、傾斜地ではより地震の被害を受けやすいことが分かってきているので、将来的には文化財の耐震補強も技術的に可能であることを示し、遺構の保全に取り組む人たちと一緒に活動していきたいと考えています。また、自然災害により文化財が「どのように壊れるのか」を調べる一方で、「なぜ何千年も、壊れてこなかったか」という視点で遺構を調べることも考えられます。土という自然の材料をうまく活用してきた先人の知恵を科学的に検証することで新たなヒントが得られるかもしれません。
一つの現象だけに注目するのではなく、総合的に研究を進める必要があります。地震や降雨による古墳の崩壊(土の力学的な安定性低下)に伴い、墳丘への雨水の浸透や、極度の乾燥、石室の温湿度の変化によるカビ汚染など、連鎖的・複合的に問題が生じるからです。また、こうした複合問題は、文化財の保全以外にも広く応用できます。ただ単に異分野と接点を持つだけでは新たなテーマには発展しないので、専門である地盤工学を掘り下げる同時に、その枠組みを広げながら、さまざまな分野の境界にある複雑な問題に取り組んでいきたいです。