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振動計測と数値解析によって、構造物の維持管理と耐震性向上に貢献したい!

RESEARCHER
斜張橋をはじめとするケーブル構造物は、ケーブルの張力で荷重を支える構造をしている。 ケーブルそれぞれに耐荷重があり、張力が耐荷重を超えていないことを確認するため定期的に点検が行われ維持管理されている。 現在のケーブルの張力推定手法は、ケーブルをハンマーで叩くなどして振動を起こし、その固有振動数より張力と曲げ剛性を推定する高次振動法が広く用いられている。

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ダンパーを有するケーブルでは、ダンパーにより固有振動数が変化するため、高次振動法では正確に張力を推定できない。そのためダンパーを一つひとつとって点検が行われている。 さらに、橋梁の長大化に伴い、架設されるケーブルも長くなったことでダンパーを有する橋梁が増えている。この研究では、ダンパーをつけたまま点検を行うことを可能にする手法の開発に取り組んだ。

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ダンパーを有するケーブルの張力推定式を開発した。

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ダンパー付きケーブルの張力推定式を用いて数値実験を行い、現行のダンパーを外した場合の高次振動法と提案手法それぞれで推定した張力を比較。さらに模型実験で妥当性を検証し、最後は実際の橋(斜張橋)を用いた検証を行なった。いずれも提案手法の誤差は5%以内に収まり、実務で利用できる精度を実現した。図は実橋(斜張橋)を用いた妥当性検証。

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先に開発したダンパー付きケーブルの張力推定手法の考え方を、ニールセンローゼ橋にも展開し、ニールセンローゼ橋に特化した新たな張力推定手法を開発した。この構造の橋では、交差したケーブルが交点クランプで留められている。点検の際には、この交点クランプを外して一本ずつケーブルを振動させて張力を推定している。交点クランプが高い位置にある場合は、高所作業車が必要な作業である。

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ニールセンローゼ橋について、交点クランプを取り付けたまま2つのケーブルの張力を同時に推定する手法の開発に取り組んだ。様々なケーブルに対して数値シミュレーションを行い、誤差2.2%以内の精度を得た。さらに模型実験による提案式の妥当性の検証では、誤差10%程度の精度で推定することができた。実橋を用いた検証では,誤差7%以内の精度で推定することができた.図は実橋を用いた提案式の妥当性検証。

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個別要素法の図。個別要素法とは、構造物を要素の集合体としてモデル化し、要素間のバネを切ることで破壊を表現する手法である。円形や球形の要素を除いてバネ定数を理論的に決定できない問題があったが、これを要素表面の離散化によって解決し、独自のプログラムを開発した。 本研究では、この改良した個別要素法を用いて、2016年の熊本地震において被災した通潤橋の被災メカニズムの分析を行なった。

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国の重要文化財である通潤橋(2023年に国宝指定)は、1954年に水不足に悩む白糸台地に農業用水を送るために建設された日本最大の石造アーチ式水路橋である。この石橋が熊本地震により被災し、前に迫り出し、盛土に亀裂が発生した。地震前後の3D測量データを比較した結果、壁石の端部に15cmものはらみ出しが起きていた。図は通潤橋の被災状況。

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通潤橋から0.9km離れた地点に地震計が設置されていた。この地点と通潤橋の麓で微動計を使い、地盤の揺れを測定した。その結果、地震計が設定されている地点の揺れは7Hz、通潤橋の麓の揺れは10Hzが卓越していることが分かった。この結果を参考に、石橋の麓の地震動について、4月14日の前震と4月16日の本震の双方を推定した。図面や石橋の現地調査をもとに石橋のモデルをつくり、推定した地震動の影響を解析した。図は通潤橋のモデル化(改良版個別要素法)。

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推定した地震動をもとにした解析の結果、はらみ出しの位置は完全には一致しないが、実際の被害を概ね再現することに成功。盛土の亀裂も再現できた。はらみ出しは、実際は15cmのところ、 計算結果では8cmであった。実際には余震の影響も大きく、またはらみ出しの位置が共振しやすかったのではないかと予測している。図は、推定地震動207galの場合のはらみ出し量。

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計算結果からは、実際の地震より1.4倍大きかったら石が落下しており、5.5倍(1100gal)大きかったらアーチ全体が崩壊していたということも分かった。

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どんなタネ?

構造物の振動計測や地震時挙動の数値解析によって、構造物の安全性を検証したり、被災のメカニズムを明らかにしたりする研究をしています。
例えば、斜張橋やニールセンローゼ橋のようなケーブルで吊られた橋について、振動特性を利用してケーブルの張力を推定する手法を開発しました。それにより、点検のためにダンパーを取り外す、交点クランプを取り外すなど、現状は必要とされる作業を省き、そのままの状態で点検を行うことを可能にしました。
また、地震時の構造物の被災のメカニズムの検証も行なっています。2016年の熊本地震において被災した通潤橋について、改良版個別要素法という独自開発した数値解析手法により、実際の被害の状態を概ね再現することにも成功しました。

なぜ研究を始めた?

博士論文では、構造物の損傷を振動特性から見つける手法について研究していました。その時は、実務に使えるような精度の高い手法が開発できず、いつか研究の続きをしたいと思っていたところに、橋梁のケーブルの張力を推定する手法が必要とされているという話を知り、取り組むことにしました。
また、構造物の被災メカニズムの研究は、世界の地震による死者の大多数が建物倒壊により亡くなっていることを知ったのがきっかけです。学生だった私は個別要素法を改良し独自のシミュレーション手法を開発しました。その後、文化財建造物の保全に興味を持ち,石橋の数値解析手法がまだ確立されていないことから、自分の開発した手法の精度を高め、石橋の耐震化に貢献したいと考えました。

なにを変える?

橋梁のケーブルの張力を推定する手法は、神鋼鋼線工業株式会社との共同研究です。現状の橋で行われている保守点検の実務が効率化されるので、実用化が期待されます。
また、石橋の被災メカニズムについては、現代的な橋だけではなく、文化財の維持管理や耐震性の向上に貢献したいと考えています。これまで、石橋がどのくらいの耐震性をもっているかは科学的に検証されていません。そこに対して科学的な手法をもちこみ、物理的な計算結果から耐震性の評価と適切な維持管理を行うことを可能にしたいです。

なにが必要?

通潤橋も含めて、石橋は一般的に、中がどのような構造になっているかが分かりません。雨や地震によって石が崩れて初めて内部構造を知ることができます。もし、石橋の外側から検査して、非破壊で中の構造がどうなっているかを可視化するような技術があれば、より正確なモデル化が可能になります。現在わからないところは、歴史的な記録文書を参考にしながらモデルを作っている状況です。

謝辞:振動特性を利用した橋梁ケーブル張力推定手法の開発は、神鋼鋼線工業株式会社様との共同研究です。

VIDEO MATERIAL
① 斜張橋のダンパーのつけられたケーブル ② ダンパー付きケーブルの模型実験の様子 ③ ニールセンローゼ橋の模型実験の様子 ④ 通潤橋での現地調査の様子(橋の上と橋の麓で計測中) ⑤ 通潤橋での現地調査の様子(橋の麓の両岸で計測中) ⑥ 通潤橋における微動計を用いた計測
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