構造物の振動計測や地震時挙動の数値解析によって、構造物の安全性を検証したり、被災のメカニズムを明らかにしたりする研究をしています。
例えば、斜張橋やニールセンローゼ橋のようなケーブルで吊られた橋について、振動特性を利用してケーブルの張力を推定する手法を開発しました。それにより、点検のためにダンパーを取り外す、交点クランプを取り外すなど、現状は必要とされる作業を省き、そのままの状態で点検を行うことを可能にしました。
また、地震時の構造物の被災のメカニズムの検証も行なっています。2016年の熊本地震において被災した通潤橋について、改良版個別要素法という独自開発した数値解析手法により、実際の被害の状態を概ね再現することにも成功しました。
博士論文では、構造物の損傷を振動特性から見つける手法について研究していました。その時は、実務に使えるような精度の高い手法が開発できず、いつか研究の続きをしたいと思っていたところに、橋梁のケーブルの張力を推定する手法が必要とされているという話を知り、取り組むことにしました。
また、構造物の被災メカニズムの研究は、世界の地震による死者の大多数が建物倒壊により亡くなっていることを知ったのがきっかけです。学生だった私は個別要素法を改良し独自のシミュレーション手法を開発しました。その後、文化財建造物の保全に興味を持ち,石橋の数値解析手法がまだ確立されていないことから、自分の開発した手法の精度を高め、石橋の耐震化に貢献したいと考えました。
橋梁のケーブルの張力を推定する手法は、神鋼鋼線工業株式会社との共同研究です。現状の橋で行われている保守点検の実務が効率化されるので、実用化が期待されます。
また、石橋の被災メカニズムについては、現代的な橋だけではなく、文化財の維持管理や耐震性の向上に貢献したいと考えています。これまで、石橋がどのくらいの耐震性をもっているかは科学的に検証されていません。そこに対して科学的な手法をもちこみ、物理的な計算結果から耐震性の評価と適切な維持管理を行うことを可能にしたいです。
通潤橋も含めて、石橋は一般的に、中がどのような構造になっているかが分かりません。雨や地震によって石が崩れて初めて内部構造を知ることができます。もし、石橋の外側から検査して、非破壊で中の構造がどうなっているかを可視化するような技術があれば、より正確なモデル化が可能になります。現在わからないところは、歴史的な記録文書を参考にしながらモデルを作っている状況です。
謝辞:振動特性を利用した橋梁ケーブル張力推定手法の開発は、神鋼鋼線工業株式会社様との共同研究です。