多孔性配位高分子(PCP)または金属有機構造体(MOF)と呼ばれる多孔性材料の中には、構造が柔軟でガス分子を取り込む(吸着)ときに突発的な構造変形するものがあります。このフレキシブルMOFを活用した次世代の吸着分離技術を研究しています。
研究はこの特異な吸着現象を分子シミュレーションによって解明するところから始まりましたが、その中でフレキシブルMOFの数々の利点が明らかとなり、特に、圧力スイング吸着(PSA)と呼ばれる吸着分離プロセスを大幅に効率化できる材料であることを見出しました。より詳細な検討のためには、プロセスシミュレータの開発や実機での検証実験が必要です。この目標に向けて、現在は構造転移速度のモデル構築や、材料の大量合成・ペレット化、ラボスケールPSA開発などに取り組んでいます。
学生から同じ研究室で継続して取り組んでいますが、吸着分離という分野に面白さを感じています。
混合物からある成分を分離するには大きなエネルギーが必要です。しかし、自己集積によって規則的な細孔構造を形成するPCPs/MOFs、とりわけ、構造変形により細孔が開閉することで特定の分子のみを効率的に吸着するフレキシブルMOFには、材料そのものに分離する能力が内在しています。
2050年までにカーボンニュートラルを実現するためには年間76億トンものCO<sub>2</sub>の分離回収が必要と試算されていますが、この難題をクリアするには既存技術の改良ではなく、抜本的な技術革新が必要です。フレキシブルMOFの可能性を活かして、今まさに世界が直面している課題に貢献したいと考えました。
吸着分離がなすべき環境問題、資源・エネルギー問題解決への貢献は、CO<sub>2</sub>分離だけではありません。
現在、化学プラントにおける分離工程のほとんどは、沸点差を利用した蒸留で行われています。たとえばプロパンとプロピレンの沸点は約–42℃と–47℃ですが、このわずか5℃の差で分離するために、大量の冷熱が投入されています。こうした蒸留では難しい分離を吸着プロセスに置き換えることができれば、大幅な省エネ化が期待できます。
PCPs/MOFsの特徴は金属イオンと有機配位子の組み合わせで、自在に細孔の性質を制御できることであり、興味深い特性を示す材料がたくさん発見されています。ですので、CO<sub>2</sub>に限らず一般論としてフレキシブルMOFを活用した吸着分離プロセスを体系化したいと考えています。
これから2〜3年は研究室で実証実験を進めるのみで、そこに大きな困難はありません。最近の半導体不足により、実験に必要な部品が手に入りにくいことが、開発スピードのネックになっていることぐらいです。
ラボスケールでの実機検証を進めた先には、大型プラントでの実証実験が必要な段階になります。その時には、企業の方々、産業界の協力が必要になるでしょう。