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フレキシブルMOFによる次世代の吸着分離技術の開発で、環境への貢献を!

RESEARCHER
PCSs/MOFsは、次世代の吸着剤として注目されている多孔性配位高分子である。金属イオンと有機配位子が自己集積的に規則的な細孔構造を形成する。その組み合わせにより細孔径・性質を自在に制御することが可能である。カーボンニュートラルの実現に向けて、分離・貯蔵の技術革新が必要な今、CO<sub>2</sub>の吸着という分野で注目されている。

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PCSs/MOFsのうち、本研究ではフレキシブルMOFに注目している。フレキシブルMOFは、周囲のガス圧力によって構造が変形し、細孔が扉(ゲート)のように開閉するため、ゲート型吸着剤と呼ばれる。

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フレキシブルMOFはある閾値となる圧力を境に吸着量が大幅に増加するため、僅かな圧力操作で吸着・脱着が効果的に行える。さらに、CO<sub>2</sub>分子が吸着しやすい専用構造をとることで、選択的にCO<sub>2</sub>を吸着することが可能。また、一般に吸着は発熱現象であり、温度が上がると吸着性能が低下する。しかしフレキシブルMOFの吸着は吸熱的な構造変形と同時に生じるため、吸着性能の低下を抑えられる。これらにより、フレキシブルMOFのゲート型吸着剤によって吸着貯蔵・吸着分離の大幅な高効率化が可能。

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フレキシブルMOFの一種であるELM-11を用いた圧力スイング吸着によるCO<sub>2</sub>/CH<sub>4</sub>分離について考察し、従来の吸着剤を使用する場合と比べて、6割以上の効率化が可能であることを見出した。この結果をより確かなものとするためには、詳細なプロセスシミュレータの開発と実機を用いた実証実験が必要不可欠である。

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圧力スイング吸着のプロセスシミュレータを構築するためにはフレキシブルMOFの構造転移が時間に対してどのように進むのかという学術的未解明問題を、実機を用いた実証実験のためには膨らむ粉末材料を賦形するという技術的課題をクリアする必要があった。

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吸着剤を吸着分離装置に詰める際、圧力損失やハンドリング向上の観点から、数mmのペレット状に賦形する必要がある。しかし、ELM-11の吸着は構造変形、すなわち粒子体積の膨張を伴うため、ペレット状に強く固めてしまうと構造変形が阻害され吸着性能が低下し、一方で緩く固めると吸着時に微粉化してしまう問題があった。そこで、凍結乾燥による新しい賦形方法で、ゲート型吸着剤が膨潤し自由に広がることができる空間を作りだすことにより、吸着性能低下と微粉化の両方を防ぐことに成功した。

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ELM-11の構造変形の経時変化を、世界最大級の放射光施設であるSPring-8で測定し、それを解析することで構造転移速度式のモデル化に成功した。化学反応と反応速度式が一対一に対応しているように、得られた構造転移速度式はELM-11の構造変形のメカニズムと密接に関わっていることがわかった。

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実験および数値計算双方の課題が解決されたことで、ラボスケールの圧力スイング吸着(PSA)装置およびプロセスシミュレータの開発に着手することができた。グラフは実験およびシミュレータから得られたCO<sub>2</sub>/CH<sub>4</sub>混合ガスを吸着カラムに流した際の出口ガス組成およびカラム内温度であり、両者が概ね一致していることを確認できた。今後は、実機を連続運転することによる実証実験と、シミュレータを用いたプロセス設計により、さらに応用に近づけていきたい。

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開発したフレキシブルMOFの吸着剤のサンプル。 (左:賦形前の粉末/右:ペレット状に賦形したもの)

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どんなタネ?

多孔性配位高分子(PCP)または金属有機構造体(MOF)と呼ばれる多孔性材料の中には、構造が柔軟でガス分子を取り込む(吸着)ときに突発的な構造変形するものがあります。このフレキシブルMOFを活用した次世代の吸着分離技術を研究しています。
研究はこの特異な吸着現象を分子シミュレーションによって解明するところから始まりましたが、その中でフレキシブルMOFの数々の利点が明らかとなり、特に、圧力スイング吸着(PSA)と呼ばれる吸着分離プロセスを大幅に効率化できる材料であることを見出しました。より詳細な検討のためには、プロセスシミュレータの開発や実機での検証実験が必要です。この目標に向けて、現在は構造転移速度のモデル構築や、材料の大量合成・ペレット化、ラボスケールPSA開発などに取り組んでいます。

なぜ研究を始めた?

学生から同じ研究室で継続して取り組んでいますが、吸着分離という分野に面白さを感じています。
混合物からある成分を分離するには大きなエネルギーが必要です。しかし、自己集積によって規則的な細孔構造を形成するPCPs/MOFs、とりわけ、構造変形により細孔が開閉することで特定の分子のみを効率的に吸着するフレキシブルMOFには、材料そのものに分離する能力が内在しています。
2050年までにカーボンニュートラルを実現するためには年間76億トンものCO<sub>2</sub>の分離回収が必要と試算されていますが、この難題をクリアするには既存技術の改良ではなく、抜本的な技術革新が必要です。フレキシブルMOFの可能性を活かして、今まさに世界が直面している課題に貢献したいと考えました。

なにを変える?

吸着分離がなすべき環境問題、資源・エネルギー問題解決への貢献は、CO<sub>2</sub>分離だけではありません。

現在、化学プラントにおける分離工程のほとんどは、沸点差を利用した蒸留で行われています。たとえばプロパンとプロピレンの沸点は約–42℃と–47℃ですが、このわずか5℃の差で分離するために、大量の冷熱が投入されています。こうした蒸留では難しい分離を吸着プロセスに置き換えることができれば、大幅な省エネ化が期待できます。

PCPs/MOFsの特徴は金属イオンと有機配位子の組み合わせで、自在に細孔の性質を制御できることであり、興味深い特性を示す材料がたくさん発見されています。ですので、CO<sub>2</sub>に限らず一般論としてフレキシブルMOFを活用した吸着分離プロセスを体系化したいと考えています。

なにが必要?

これから2〜3年は研究室で実証実験を進めるのみで、そこに大きな困難はありません。最近の半導体不足により、実験に必要な部品が手に入りにくいことが、開発スピードのネックになっていることぐらいです。

ラボスケールでの実機検証を進めた先には、大型プラントでの実証実験が必要な段階になります。その時には、企業の方々、産業界の協力が必要になるでしょう。

VIDEO MATERIAL
フレキシブルMOFの構造が変形する様子。ある圧力で構造変形し、細孔が現れる。圧力の制御によって孔を開閉することができる。
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