核融合プラズマでは、様々な物理現象が複雑に相互作用しています。研究では、ニューラルネットワークなどのデータ駆動型の手法を使い、その挙動の予測に取り組んでいます。
例えば、既存のモデルである第一原理に基づいて計算すると、スーパーコンピュータを用いても数日から数週間を要します。そこで、この精度を維持しながら大幅に高速化する新しいモデルを開発しました。これにより、核融合反応を高効率に生じさせる重水素・三重水素プラズマの性能予測に重要な水素同位体の違いによる乱流の変化を第一原理に基づいて高速に予測することを世界で初めて可能にしました。同様のモデル開発手法を利用して、電磁流体力学的に不安定なプラズマの挙動を踏まえた性能予測にも成功しています。
さらに、プラズマの実験装置から得られた計測データから経験的にプラズマの挙動を予測するモデルの開発も行いました。このモデルに対して遺伝的アルゴリズムを用い、望ましいプラズマ状態を実現するための実験条件を推定する研究も進めています。
もともとは、地球温暖化問題をエネルギーの面から解決したいという思いから工学部に進学しました。子どもの頃からオランダで生まれた絵本の主人公のミッフィーが大好きだった私は、中学生の頃に地球温暖化について学んだ際に、海抜の低いオランダが沈んでしまうと考え、環境問題に強い関心を持ったことがきっかけです。調べるうちにオランダは高い治水技術を持つことを知り、その不安は割と早々に解消されましたが、一度決めた方向に突き進みました。
大学に入り、研究者として新エネルギーの開発に携わりたいと考え、研究開発の余地が多くある核融合エネルギー分野を志しました。学部の卒業研究では、過去の核融合実験のデータベースを解析し、プラズマの性能を示す「閉じ込め時間」を予測するモデルの開発に取り組みました。データを解析するうちに、その背後に多様な物理現象が隠れていることに気づき、そこに面白さを感じました。そこで、物理現象そのものを理解し、新しい予測モデルを構築したいと考え、現在の研究へと至ったという訳です。
プラズマの予想モデルの開発に取り組んできましたが、将来的に私が目指しているのは、核融合装置全体を予測できるシミュレーターを実現することです。現在も、簡略化したモデルで核融合装置全体を予測することはできますが、より詳細な物理現象を取り入れることで、装置の性能や発電コストを高い精度で予測できるようになると考えています。例えば、社会のインフラとして、どれだけの燃料を投入すれば、どれだけの発電量が得られ、どれだけの市民に供給できるのかといったことを評価できるようになります。これにより、核融合発電の実用化を促進し、地球温暖化問題の解決に貢献することが期待されます。
核融合研究をさらに発展させるためには、国際的な協力を一層強化することが重要だと考えています。海外では、核融合装置全体を予測するためのモデルがオープンソース化されているなど、多くの人材や組織を巻き込んだ研究が進んでいますが、日本にこうした動きは乏しいように私には見えます。日本では、個々の研究者が独自にモデルを構築する傾向が強いのですが、どんなに優れた研究者でも、全てのモデルを開発することが難しいのが核融合だと思っています。そして、核融合エネルギー開発は国際的な協力の下で進められているプロジェクトでもあります。積極的に連携協力をしながら進めることで、より高度な予測モデルの構築が可能になると考えています。