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電子のスピンを制御して、新しい電気化学反応を拓きたい!

RESEARCHER
水電解反応による水素製造では、対極で起こる酸素発生反応の効率がボトルネックといわれている。水素を効率よくつくるには、酸素を効率よくつくる必要があるのだ。 水電解反応においては、1重項酸素、3重項酸素、過酸化水素の3つの生成物が存在する。このエネルギーの高い1重項酸素と副生成物の発生が、酸素発生反応の非効率化の要因になっている。 1重項酸素の生成によるエネルギーロスと、副生成物の発生をおさえ、3重項酸素を優先的に生成できれば反応効率が向上すると考えられる。

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CISS効果という、キラル分子を通過した電子がスピン偏極を受ける現象が知られている。この性質を利用して、水電解反応におけるOHラジカルのスピンを揃えて電解すれば、3重項酸素を優先的に発生することができると考えた。

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キラル分子のキラルMoS<sub>2</sub>とキラルTiS<sub>2</sub>をもちいた電極を開発し、CISS効果を用いて、酸素発生反応を効率化することに成功した。図はキラルMoS<sub>2</sub>。

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キラル分子のキラルMoS<sub>2</sub>とキラルTiS<sub>2</sub>をもちいた電極を開発し、CISS効果を用いて、酸素発生反応を効率化することに成功した。図はキラルTiS<sub>2</sub>。

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MoS<sub>2</sub>へのキラル分子のインターカーレーションによって、MoS<sub>2</sub>の層間にキラル分子を挿入し、層状構造をつくることに成功した。

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作成したキラルMoS<sub>2</sub>の物質を電極に塗布し、スピン偏極率コンダクティブAFMによりスピン偏極率の評価を行った。その結果、電流中のスピンを揃えることに成功し、約75%のスピン偏極率(電流中でスピンが同方向に揃っている割合)を得た。水電解反応では酸素発生効率が向上することを確認した。図はキラルMoS<sub>2</sub>の水電解反応。

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キラルMoS<sub>2</sub>は局所的には規則構造をとっているが、全体では不規則であるため、スピン選択性に限界があった。そこで、キラルTiS<sub>2</sub>超格子に作製した。規則的な層状構造をもつTiS<sub>2</sub>単結晶に対して、電気化学的インターカーレーションを行うことにより、キラル超格子構造の作製に成功。

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キラルTiS<sub>2</sub>では、95%のスピン偏極率を実現した。また、キラルTiS<sub>2</sub>超格子を用いた水電解セルにより、水素発生反応を効率化し、通常の電流時と比べて1.5倍を実現した。電流値は、キラルMoS<sub>2</sub>の系の約10倍を達成した。図はキラルTiS<sub>2</sub>の水電解反応。

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①キラルMoS<sub>2</sub>のサンプル ②キラルMoS<sub>2</sub>を塗布し開発した電極 ③キラルTIS<sub>2</sub>のサンプル ④キラルTIS2<sub>2</sub>超格子を用いて開発した水電解セル

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どんなタネ?

水電解反応について、キラル分子を利用して電流中の電子がもつスピンを制御することにより、酸素発生反応の効率をあげる研究をしています。
キラル分子を電子が通過すると、スピンが偏極を受けて平行にそろう効果があります。キラル分子による層状構造を作り、この物質を電極に塗布し、水電解反応を起こすことにより、バラバラのスピンを平行に揃えることに成功しました。最初はランダムな配向のキラルMoS<sub>2</sub>で実験を行い、高配向なキラルTiS<sub>2</sub>でさらに性能を高め、スピン偏極率95%を実現しました。スピンのそろった電流を使用することにより、通常の電流時に比べて酸素発生反応の効率が約1.5倍に向上し、また副生成物である過酸化水素の生成量も減少しました。

なぜ研究を始めた?

もともとは、物理学の分野でスピントロニクスの研究をしていました。電子がもつスピン自由度を利用した次世代のエレクトロニクスに取り組むうちに、予想以上に電流中のスピンを揃えられることに気がつきました。
電気化学も、電子の流れを扱う分野です。このスピンを制御する技術は、電気化学という別の分野でもいかせるのではないかと考えました。化学において、物理で培った経験をいかして評価技術の確立にも貢献したいと考えています。

なにを変える?

水素エネルギーの利用に向けて、水電解反応における酸素発生反応の効率がボトルネックと言われています。このスピン制御という新しい技術の提案は、酸素発生反応効率の大幅な向上を可能にしました。しかし、有機物をもちいるため、工業的な使用に耐え得る設計にすることが課題です。この課題にとりくみ、産業界と連携し研究を進めていきたいと考えています。
また、電流中のスピンの制御は、新しいサイエンスを生み出すことも可能かもしれません。有機分子の合成反応など、全く異なる電気化学反応にも取り組みたいです。例えば、合成する時にスピンを使うことにより、キラリティ選択的な反応を可能とし、製薬分野などへの貢献も考えられます。

なにが必要?

他の分野の知見を得ることが大事だと考えています。他の分野の方々にこの技術を知っていたくことで、様々な展開があるかも知れません。
特に、生物、バイオの分野で活用に可能性を感じています。人体はキラル分子でできており、そこを流れる電流のスピンは偏極している可能性があります。植物の光合成にスピンが関わっているという仮説もあり、人工光合成のモデル材料になるかも知れないと、想像が膨らみます。
電子を制御した新しい化学反応を、様々な分野の方と探求していきたいです。

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