水道水の水質に関して、主に微生物からみた安全性確保に関する研究を行っています。
上水道システム全体(水源から蛇口まで)にわたって広く研究の対象にしていますが、例えば水源での病原微生物のリスク管理に関する研究をしています。病原微生物は測定が大変なので、大腸菌のような簡単に測れる微生物によって水質が評価されています。しかし、これらは病原微生物が存在しない水源でも検出されやすく、汚染の過大評価につながってしまいます。
そこで、より正しく汚染レベルを示唆できるような指標微生物を探しています。まだ研究途中ですが、大腸菌よりも原虫汚染を正確に示唆できる可能性をもった有望な微生物が挙げられつつあります。
幼い頃から環境問題に関心をもっており、何かしら解決に貢献できればと思っていました。大学4年生のときに今の研究室に配属された当時、実はそれほど水道に興味を持っていたわけではありませんでした。しかし、いざ水道界を垣間見れば、水道水にも実は一般には知られていないような重要な水質の問題があることを知りました。少なくとも日本では水道は当たり前の存在になっていますが、安全で快適な水道水を常に大量に供給することは大変だと思います。今では研究を通してこのような水質課題の解決に少しでも貢献したいと考えています。
水道局や衛生部局の現場での水質管理に少しでも役立つ知見や技術を集めていきたいと思っています。
例えば、病原微生物は低濃度で濃縮しないと検出できないため、測定に大変な手間がかかります。病原微生物と同じような挙動を示し、簡単に測定できる新たな指標微生物を提案できれば、より簡便に微生物リスクの大きさを評価できるようになるかもしれません。
一方で、病原微生物そのものについての研究も重要です。現状では十分に安全な水道水が供給されていると思いますが、気候変動が進んでいく中で、瞬間的にリスクを増大させるような微生物や特殊な状況があるかもしれません。将来起こるかもしれない水質課題を未然に防ぐ、という視点に立って研究を進めていきたいと思います。
水道の研究では水源、浄水場、水道管といった様々な場所を扱いますが、大学の実験室にはその「現場」がありません。水道局の方々にご協力いただき、浄水場で試料採取・実験させて頂くことはありますが、そう頻繁にお願いできることではありません。特に給配水の過程での水質変化を調べる際には、地中に埋まっている水道管が現場となり、アクセスできないことがほとんどです。また、「水道の病原微生物」という話題自体がセンシティブな内容で、気軽に測定しづらいことも現場を遠ざける一因となっています。好きなように運転管理や実験・採水ができる小型の浄水場があれば、と思うことが多いです。