原子間力顕微鏡(AFM)の分解能を高める研究をしています。AFMは、先鋭なプローブ (探針) と試料との間にはたらく相互作用力を計測し画像化します。プローブはカンチレバーと呼ばれるマイクロスケールの板ばねの先端にあり、このカンチレバーの精密な振動制御・検出により、水の中で原子・分子分解能を達成しました。これにより、DNAや抗体分子の高分解能観察や、固体と水の界面における水分子やイオンの3次元分布の可視化に成功しました。一方、AFMを用いて電子デバイスの局所電子状態の可視化や、固体表面下に埋もれた構造の可視化など、これまで見えなかったものを見ることにも挑戦しています。
AFMは真空や大気中でよく使われてきました。真空では原子・分子分解能が出るものの、見られる材料が限られてしまいます。また、大気中では一般に試料の表面は水の層で覆われているため、やはり原子・分子分解能が得られる試料が限られます。そこで、水の中でも真空中と同じくらいの原子・分子分解能が実現できるのではないかと考えました。水の抵抗を受ける分、カンチレバーの振動制御・検出が難しくなって、力検出感度は落ちてしまうのですが、光学系や回路系のノイズ低減により克服し、原子・分子分解能が達成できました。学部生の頃から20年超にわたり、AFMの面白さ、ナノの世界が見えるというすごさに魅せられてずっと研究しています。
例えば抗体などの生体分子は、真空中だと乾燥して変形し、そのままの構造が見られません。水の中で観察ができれば、タンパク質の機能の発現などを見られるため、ライフサイエンスの分野に貢献できると考えています。また産業では、電池や電極の表面で何が起こっているかを見ることで、さらに高効率のデバイス開発が可能になります。さらに、エアロゾルなど表面で何が起こっているかわからない材料や、固体と気体、固体と液体の界面など、あらゆる表面・界面のナノスケール構造・物性が測定の対象となります。誰も見たことがないものを見るのは、新しい共創分野につながると期待します。
私はナノスケールで見る技術を開発することを得意としています。ぜひ、「こんなものが見えないか」という思いのある研究者とつながり、横の展開を進めていきたいと思います。今も様々な分野の方と連携をしていますが、もっと色々な試料を測ってみたいと考えていますので、測りたい試料があれば是非話を聞かせて下さい。