マイクロ・ナノスケールの熱や物質、運動量の輸送現象を、計測・制御するための研究をしています。特に、近年開発の進むマイクロ熱流体デバイスへの応用を念頭に、微細な流れ場の熱流体計測技術の開発に力を入れています。まず、ラマン散乱に着目し、ラマンイメージングによる非侵襲な濃度・温度の計測に成功しました。また、蛍光分子の回転ブラウン運動の様子を光で検出する蛍光偏光法により、環境や外乱の影響を受けにくい流体粘度・温度の計測を可能にしました。さらに、力を加えると構造が変化する力応答性蛍光分子を利用して,非接触な流体の応力場計測に取り組んでいます。いずれも流路内を高い空間分解能で2次元的に可視化します。
もともとナノマイクロスケール、流れ、光計測に関心があり、この3つが重なった対象の一つとしてマイクロ熱流体デバイスに着目しました。マイクロ熱流体デバイスは、微量のサンプルで環境分析や生化学分析を可能にする小型デバイスとして注目されていますが、その機能や効率を向上させるには、マイクロ流路内の輸送現象を正確に制御する必要があります。そのために、「流路内がどうなっているのか」を明らかにする高度な計測技術が不可欠です。目には見えない小さなスケールで、流れによって時々刻々と変化する輸送現象を、光を駆使して非接触に計測する。その難しさと面白さを同時に感じながら、研究を進めています。
これらの測定法はいずれも、マイクロ熱流体デバイスの設計段階における熱流動場の評価や、デバイス動作中の流路内のモニタリングなどに生かせます。また、これらの計測法を流路の壁面と液体の「界面」に応用することで、新しい現象の解明につながる可能性があります。界面近傍は特に計測が難しく、多くのことが未解明のままです。例えば沸騰現象はとても身近な現象ですが、壁面で気泡がどのように発生し成長するのか、その過程でどのように熱が輸送されるのか、などは現在も多く議論されています。熱流体が関わる様々な分野において基盤となるような新しい計測技術を開発していくことが目標です。
ラマンイメージングでは分子の振動、蛍光偏光法では蛍光分子の回転、応力場計測では蛍光分子の羽ばたきの様子を光で検出し、温度や粘度、応力などの情報を得ます。いずれも分子の運動を利用しますが、実際には分子を一つひとつではなく塊として捉え、ある領域で平均化された値を計測します。そのため計測結果から、個々の分子レベルでどのような現象が起こっているかを詳しく知ることはできません。分子シミュレーションをしている方など、分子スケールの描像を持つ方の知見を得られたら、計測原理の根幹をより理解することができるかもしれません。私たちが想像する現象が分子スケールで本当に起きているのか、解明を進めたいです。