高周波の音が伝わる現象を数値シミュレーションと理論計算で調べています。音波は気体の圧力の微小変動として捉えられるため、通常は気体・液体を扱う巨視的な流体力学で説明ができます。しかし約100MHz以上の高周波では現象をうまく記述できません。例えば高周波になるほど音の減衰が強くなり、遠くまで伝わらなくなります。こうした特徴を捉えるには、より微視的な立場に立った分子気体力学が必要です。本研究では分子気体力学を土台に、流体力学による記述からずれ始める高周波帯の音の伝播を記述できる「拡張された流体力学的枠組み」を導き、数値シミュレーションによる検証も行いました。
MHz、GHzと周波数が高くなるにつれて、音波の波長は短くなっていき、やがて気体分子の「平均自由行程」に近づきます。これはビリヤードの玉のように、ある分子が別の分子と衝突してから、さらに別の分子に当たるまでの平均距離のことで、波長がその長さまで短くなると、流体力学の前提が崩れてしまいます。そこで、分子のふるまいも考慮した分子気体力学によって、ミクロなレベルでこの現象を捉えることに挑んでいます。そして、気体を巨視的に捉える従来の流体力学との橋渡しをしたいと考えています。
まずは科学的な側面として、高周波の音をはじめ、通常の流体力学でうまく説明できない現象を研究して、分子気体力学の発展に寄与したいと考えています。工学的には、例えば、微小な電子機械システムであるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の設計への応用が考えられます。センサーなどに用いられるMEMS内の振動子は1MHz以上の高周波の音を出し、同時に気体の抵抗を受けています。その抵抗値を予め把握したり、振動による共鳴を制御したりする際に、この知見が役立つと考えています。
分子気体力学分野の研究テーマでは、しばしば大規模な計算が必要になります。このため、スーパーコンピュータの利用枠などの計算資源が確保できるように努めています。また、応用面では、MEMSの他にも、高周波の音波に関する課題、あるいは効果的に利用したい場面などがあれば、ぜひお話を伺いたいと思います。