濃厚水溶液を用いて金属の電気めっきを行うという研究をしています。濃厚でない従来濃度の水溶液を用いるめっきの場合、毒性が高く環境負荷が大きい薬剤を必要とする点が課題です。塩化カルシウム(CaCl2)や塩化リチウム(LiCl)を多量に溶解した濃厚水溶液は、低毒性で、金属塩の溶解度が高く、かつ多量の金属イオンの存在によって水分子の動きに制約が生じ、水の電気分解を抑えられます。この特徴をいかして効率が高く環境にも良いめっきを開発し、銀めっきとクロムめっきで成果がでています。
もともとイオン液体(イオンのみからなる液体)に関心があり、水和イオンのみからなる液体である「濃厚水溶液」をつくったところ、様々な系の‟いいとこどり“ができることに気づきました。工業的によく使われるめっき液では、毒性が高く環境負荷も大きい青酸カリ(シアン化合物)や6価クロムが現在でもしばしば用いられます。水溶液以外の系からのめっきは、揮発性や引火性、材料コストなどの問題があり、まためっき物にカーボンが混入するのが課題です。濃厚水溶液でこれらの課題が解決できると考えました。
濃厚水溶液をめっき液に使うことで、カーボンフリーで、効率が高く、環境負荷の小さいめっきが可能になります。今後、他の金属のめっきや金属製錬(金属の純度を高める、金属資源のリサイクルなど)に関連する様々な電解反応を試し、濃厚水溶液の可能性を探りたいです。
研究としては、どのようにめっき物が成長していくかのシミュレーションができれば実験との相乗効果が出て、さらなる進展が期待できます。また濃厚水溶液からの銀めっきは、廃液を水で希釈するだけで銀資源を回収できるという従来にないメリットもあります。銀めっきについては、その特徴をもっためっきをどこで工業展開できるか、さらなるアイディアを必要としています。