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健全な水環境に向けて、下水で社会の健康診断を。

RESEARCHER
調査を行う琵琶湖付近の風景。

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琵琶湖周辺の河川での大腸菌濃度の調査(2019年10月26日~11月1日/ 日野川、出雲川、野洲川、杣川)。晴天時と雨天時で調査を行うと、雨天時に大腸菌濃度は3~10倍に上昇することが分かった。周辺にある下水処理場とブタ、ウシ、トリの畜産場の影響が考えられる。

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桂川流域における医薬品濃度の調査(2014年~2016年/上流域・下水処理場放流水・下流域)。各地の水を採取。医薬品の標的となるGタンパク質共役受容体(GPCR)に着目し、試料に曝露した培養細胞の反応によって濃度を測定した。

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どんなタネ?

下水と下水が放流される河川の中に含まれるウイルスや医薬品を調べ、その影響を研究しています。ウイルスでは、PCRによりノロウイルスや新型コロナウイルスなどがどのくらい含まれるかを調べています。医薬品では、ヒトや魚の受容体遺伝子を発現させた培養細胞を使って水中の医薬品、特に神経細胞に作用する抗うつ薬などの医薬品濃度を世界で初めて測定しています。また、共同研究者による魚への影響を調べる実験では、産卵の行動がおかしくなるということがわかりました。人に処方された薬が下水を通じて河川に流れこみ水生生物へ影響を及ぼすのです。

なぜ研究を始めた?

環境ホルモン(外因性内分泌撹乱物質)の水質汚染問題が研究の原点です。環境ホルモン問題は沈静化したように見えますが、解決したわけではなく、さらに新たな課題として医薬品による水環境汚染が浮上しています。ウイルスや薬剤耐性菌など人健康に害を及ぼす微生物の水環境汚染も課題です。

医薬品の研究では、人の健康と水生生物の保護の両立のための科学的根拠を提供します。ウイルスの研究では、下水中のウイルス濃度から市中の感染状況を医療機関PCRよりも早く正確に把握することが可能です。例えば新型コロナウイルスのようなパンデミックにおいて、市中の感染状況を把握する手段として下水でのウイルス調査が期待されますし、今そのようなプロジェクトを実際に行っています。生態系の保全と水環境の改善に貢献したいとともに、下水を調べることで、誰も知らない情報を知ることが面白いのです。

なにを変える?

今後、水中の医薬品の影響による生物の多様性の減少やそれを原因とした漁獲量の減少など、人間への影響もわかってくるかもしれません。魚だけでなく、ミジンコやエビなどの甲殻類への神経系医薬品の影響を調べる研究も、世界で初めて取り組んでいます。水生生態系への医薬品汚染の影響の全容を解明する目標を掲げています。そうなれば、初めから生物影響の少ない医薬品をつくる試みにつながる可能性があります。また現在のパンデミックの状況を受けて、感染症に強い社会を構築する方法の一つとして、下水でのウイルス濃度情報を行政が有効に活用するシステムの構築に挑戦しています。

なにが必要?

研究の必要性について、社会での理解が高まれば嬉しいです。「今まで無事だったからこれからも何もしなくてもよい」のではなく、知らずに生きているうちに魚がどんどん減っている可能性もあるのです。また、新たな感染症が発生した時に社会の健康診断のツールとしての下水の役割には社会的な意義があります。若い世代が環境工学に興味をもち、一緒に研究に参加してくれることを期待します。

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INTERVIEW
桂産直便
健全な水環境に向けて、下水で社会の健康診断を。

2021.01.19

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