海岸工学の分野で、粒子法を用いて流体運動のシミュレーションモデルの開発をしています。
粒子法には、圧力にノイズがのり、エネルギーの保存性が保たれないという課題がありました。そこで、粒子法の一種であるMPS法の計算アルゴリズムを修正し、エネルギーの保存性を改善することに成功しました。従来のモデルでは、たとえば重力によって容器の中で水面が波打つ定在波計算では、実現象と異なり波の振幅が段々と小さくなってしまう結果になっていましたが、開発したモデルでは、十分に振幅を保ったまま水位変動を繰り返すようになりました。
この新しい手法を用いて、流体と土砂が連携した運動を解くモデルを開発しました。さらに、実際の海岸工学の問題にも適用し、人工リーフを覆う被覆ブロックが台風などによる大きな波によって流出する被害についてのシミュレーションも行いました。
大学4回生で研究を始めてから、ずっと粒子法に取り組んできました。研究室訪問に行った際に粒子法の計算結果を見せてもらい、当時は精度が良くなく、水面形もきれいなものではありませんでしたが、非常に面白いと思ったのがきっかけです。もともと中学生の頃からMSXというパソコンで遊んでいたため、プログラムを組むシミュレーションに関する研究は自分に合っていたのでしょう。
海岸工学を選んだきっかけは直感的なものです。3回生の夏に、青春18切符をつかって一人で旅行していた時に、電車から見た海に感銘を受けました。そのタイミングで海岸工学に出会い、いいなぁと感じました。
この分野で研究を20年以上続けていますが、まだまだやれそうなことがあります。
粒子法は比較的新しい手法であり、改善していく余地が十分にあります。粒子法よりも一般的な手法として格子法がありますが、現在海岸構造物の設計には、その格子法を用いたモデルが広く使われています。しかし,格子法では再現の難しい現象がありますので、そうしたものに粒子法を適用していくことで、設計に役立たせられると考えています。
海岸構造物の設計においては、被害を防ぐために安全率を大きくとるので、施工コストが高くなるという現状があります。実際の海岸における複雑な現象の再現ができるかどうかにかかっていますが、シミュレーションの精度が高まれば、コスト削減にもつながります。このように、海岸工学の実務者につかってもらえると嬉しく思います。
より実際に即したシミュレーションを行うには3次元計算が必須ですが、粒子法は計算負荷が大きいことが問題です。このことが、技術者や実務者に避けられている原因です。昨年実施した高波浪作用下における人工リーフ被災の再現計算では、汀線方向にブロック3個分の幅とするので精一杯でした。
モデルの改善やコンピューターのスペックの改善によって、計算速度が速く、負荷が小さくなることを期待します。