π共役分子について、とくに窒素N、硫黄SやリンPなど、有機化学の主役である炭素C以外のヘテロ元素をつかって新しい分子をつくることを目指しています。うまく設計して組み合わせることで、良く光る分子や電気を流す分子といった高機能な分子をつくることができました。またNを含むポルフィリンは植物のクロロフィルに見られ、光を効果的に捕まえることができという特徴を持ちます。そこでヘテロ元素と組み合わせるための手法を新規に開発し、目に見えない光も有効活用できる色素の実現を目指しています。また応用を見据えた研究では、π共役分子が光を吸収し、そのエネルギーを電子の移動として取り出すことができる性質を利用して、色素増感太陽電池を開発しています。
全く新しい分子をつくりたい、そしてその分子がどのようなものかを知ることで、分子の形とその性質の関係を解き明かしたいという思いがありました。
中でも、色がつくこと、光るということの面白さにひかれています。色がついていないものから色がつくものができる。色々な光るものができる。この形の分子だったらこんな色、こんな光の分子だったらこんな形、と繰り返すことで分子の形と性質の奥にある法則が垣間見えた時の楽しさで続けてきました。
それらのつくった分子を、太陽電池や有機ELといった使えるものにしていこうというのは自然な流れでした。特に光エネルギーの利用、そして太陽電池は面白いと感じています。太陽エネルギーを本当に使うことができたらエネルギー問題は解決するでしょう。
新しい分子がつくれるかどうかは、分子の形を思いつくためのひらめきと、実現するための合成法にかかっています。この研究が進むことで、こんな形の分子・こんな合成法があるなら、こんな形の分子はどうだろう、と想像力が掻き立てられ、挑戦したいと思う人が一人でもいたら嬉しく思います。既に数十年間研究者が挑戦していても合成に成功していない分子がありますし、まだ誰も思いついていない分子も眠っているでしょう。また、色素増感太陽電池は屋内用途で大きな可能性を秘めているとも言われており、社会実装が進んでいけばIoT社会における存在感を増していくのではとも思います。
有機分子をつくる合成反応は、どうしても手間と時間がかかるところです。実際につくるところでの手間を減らすための装置や、つくる前に理論化学による予測等を有効活用した分子設計ができると良いと思います。また研究室でつくっている太陽電池は、手でくみ上げることができて、誰でもつくれるのがよいところですが、人によって変わる要素が多くあります。将来的には安定性・均一性が求められると思いますので、できるだけ太陽電池をつくるときの様々な工程を自動化できるとよいと思っています。研究をさらに効率的に、効果的に進めるために、つくる人によらない部分を増やしていきたいと思います。