数理モデルを使い、数学の力で建築に貢献することを目指して研究を進めています。
成果の一つ目として、数学者と連携し、内圧をかけて釣り合う合理的な空気膜構造の形をシミュレーションで導き出すことに成功しました。
二つ目の成果は、滑らかな曲面構造を三角形のポリゴンで置換して最適化する手法です。開発したモデルによって、ある荷重・材料使用量の制約下で構造性能を最大化する最適な形状の生成を行いました。
さらに三つ目として、三角形パネルやトラスを、どの順序であれば効率的に組み立てられるか、AIによって組立順序を予測させる手法を開発しました。
四つ目は、一枚の平面に切り込みを入れてドーム型の構造をつくるための、新しい構造の提案です。一枚だけだと外力に対して大きく変形するところ、互いの回転変形を拘束するように二枚を重ねると強くなることを発見し、シミュレーションとプロトタイプで優れた構造性能を確認しました。
学部時代は意匠設計者を志していましたが、同級生や後輩の優れた建築デザインを見て、もう一つ武器が必要だと考えました。そこで、修士から複雑な建築形状を最適化計算によって求める構造系の研究室に移り、プログラミングを始めることにしました。
博士論文のテーマとして、指導教官からAI技術の一つである「強化学習」を研究対象にするよう指導があり、それから1年3カ月、200本以上の論文を読み漁りました。ようやく1本の論文から節点と辺がランダムに繋がった「グラフ」と呼ばれるデータ構造を扱った強化学習手法に行き当たり、これはもしかしたら建築に応用できるのではないかと考えたのが、今の研究テーマに至るきっかけです。また、指導教員が参加していた大型研究費プロジェクトJST CRESTをきっかけにお会いした数学者の方と勉強会を始めたことで研究の幅が広がりました。
根底にあるのは、「新しい技術を使って誰も見たことのない形を作りたい、それをどのように作れるのかを考えたい」という思いです。これまで設計に対して人間が培ってきた暗黙知を、数学の力をつかえばコンピューターでもわかる言葉にすることができます。それにより、効率的で創造的な建築構造設計プロセスの開発を目指しています。
私の仕事として、建築家と構造家の間に入って、数学の言語が分からなくてもコミュニケーションを可能にするツールを作ることがあります。建築家が新しいデザインを検討する度に毎回解析するのは大変です。数理モデルによって、デザインと構造や他分野との間をつなげることには大きな可能性があると考えます。
合理的な構造物を、より少ないマテリアル、少ないコスト、少ない労働力で作ることができれば、建設産業のサスティナビリティに貢献できます。さらにはデザインをする人の創造性を拡張し、新しい構造システムの提案にもつなげることができるでしょう。
まずは、私たちの研究がどれだけ面白いことができるかを広く伝えることが必要だと考えます。CGや模型、パビリオンのような実際の建築物への応用を想像させるプレゼンテーションによって、ビジュアルとしてインパクトを与えることが必要です。京都には素晴らしい職人さんがたくさんいます。地域と協力して実際に面白い構造物を大小様々なスケールで作れたら京都の伝統的なものづくりの文化との融合も期待できます。次に“ボトムアップ”のツールづくりです。私たちの研究で面白いものができることを知り、興味をもった人たちが、自らもすぐに実践できるような道筋をつくれたらと考えています。新しいツールを無償で公開して開発した手法にアクセスしやすくしたり、数学が不得意な方でも体験できるワークショップなどの教育プログラムを開くことで、研究の楽しさをたくさんの人に共有できたら嬉しく思います。