新材料の探索に対して、行列(テンソル)分解を用いた「合成条件推薦システム」という機械学習手法によりアプローチしています。新しい無機物質には単純な組成に限定しても数億以上の組成候補がありますが、そのうち既に合成されている物質は5万ほどしかありません。物質探索では、「どのような候補があるか」「どのように合成するか」という2つの課題に対して効率的に予測する必要があります。そこで、まず千件程度の合成結果を利用してデータベースを作成し、合成可能性を予測する機械学習モデルを作成し、数万〜十数万の未知物質についての合成可能性をランキング化しました。その上位300件を実際に実験したところ、2つの新物質の合成条件を適切に予測し、また、機械が合成しやすいと予測したものは、実際に実験でも合成できることを検証できました。
子どもの頃から宝探しが好きで、研究でも、誰も知らないものを知りたい、見つけたことがない物質を見つけたいと思って続けてきました。
新物質の探索には、100年以上多くの研究者が取り組んでいますが、どのようなものが安定なのかといった法則が体系的に十分解明されてきたとはいえません。多種多様かつ大規模なデータを集め、機械学習手法を適用することで、そうした物質合成空間に潜在する法則が明らかになっていくと期待しています。宝探しでだけで終わることなく、法則を支配している物理や化学を知りたいと考えています。
社会的には、世界中の研究者が、それぞれ個別の材料的問題に対して行っている試行錯誤をなくしたいと思います。予測システムがあれば、ある物性の材料を作りたい時に、「どのように作るか」「できた新物質が何に使えるか」が、検索すれば同時にわかるようなことも可能になります。
また個人的には、合成研究者が感覚的に知っている「物質同士が似ている」とはどういうことか、単純な足し算では表現できない「物質を混ぜたときに何が起きるか」といった法則を見つけていきたいと考えています。材料研究では、例えば超伝導、太陽電池といった分野ごとに新物質の探索が行われています。そうした分野を超えて結びつけるような、物質の世界の根底にある法則を知りたいのです。
現在、物質の合成はロボットを利用してある程度自動化することでデータの取得を進めていますが完全な自動化はなかなか困難です。例えばある装置から別の装置に試料を運ぶ際に、専用の大きな実験室があれば自動搬送機で運ぶことができますが、大学の環境では難しいのが実情です。ロボットと人間の協働には安全上の制約が多いため、一つの大きな建物に無人の作業環境が構築できればさらに効率があがります。
また、法律的な課題が生じることがあります。例えば、資格のある人間が操作することが定められている装置をロボットが操作してよいのか。こうした取り決めのない課題に対して、国などの機関とやり取りを進めるような支援体制があれば嬉しく思います。
さらに、同じ目標をもってチームに加わっていただける仲間も多く必要としています。