生命と疾患におけるマグネシウムの量調節の重要性を解明する研究をしています。マグネシウムは、その仕組みや重要性(多すぎ、少なすぎがなぜよくないのか)については十分にわかっていませんでした。私たちの研究から、長らく不明であった、細胞からマグネシウムを排出し、体内への吸収・再吸収の必須分子CNNMを同定することに成功しました。これにより、CNNMの機能調節を介して可能となったマグネシウム量の人為的操作を介して、マグネシウム量調節の生物学的意義の解明を進めています。これまでがん細胞の酸性環境適応機構に重要であることなどを明らかにしており、さらに他の疾病や老化などにも研究対象を拡張しながら、生命・疾患におけるマグネシウム量調節の重要性を追究しています。
もともとはがんを対象に研究を進めており、ヒト悪性がん組織で特異的に発現し、がん悪性化を進めるPRLという分子に結合する分子を探していたところ、CNNMを発見しました。その機能解析より、幸運にもCNNMがマグネシウムの量調節機構に関わることを見つけることができたので、マグネシウム量の変化がもたらす影響や、その背後にある仕組みを詳細に解明したいと考えました。
マグネシウムは、大事な元素であることが広く知られているものの、他の生命元素と比べ解析があまり進んでいません。正確に測る技術すら未だに確立されていないという状況ですが、測定方法の開発も含めた、さまざまな共同研究によって研究を進めてきました。始まりは偶然ですが、未知の部分を開拓しながら、未整備な状況に貢献したいと研究を続けています。
基礎科学としての研究を引き続き進めていきたいですし、その先の応用も見据えています。例えばがんについては、マグネシウム量の調節異常ががん細胞の酸性環境適応と関わることを見つけています。腫瘍組織の中は通常と大きく異なっており、例えば低酸素状態についてはがん細胞の適応機構が詳しく解析されており、それを阻害する薬も開発が進んでいます。いずれは酸性環境についても機構が解明されれば、さまざまな研究者が、それに対する薬の開発を目指して研究をはじめる動機づけになる可能性があります。
また世の中では「カルシウムをとりましょう」とよく言われます。一方、マグネシウムの不足が高血圧など色々な病気を誘発することが指摘されているにも関わらず、「マグネシウムをとりましょう」とはあまり言われません。その理由としてマグネシウム不足から疾患へとつながる仕組みがあまりわかっていないことが挙げられ、自分たちの研究からそれを明らかにすることで、マグネシウムの摂取の重要性が認知される世の中になると嬉しく思います。
マグネシウムを「見る」「操作する」方法をさらに改善していきたいです。例えば、細胞や組織のマグネシウム量を自在に変えられるツールや、細胞・生体内のマグネシウム量を高解像度にかつ定量的に見られるツールなど、一緒にツールを開発していただける方の協力を得られたら嬉しく思います。
また疾患との関わりを追究する研究の特性上、実験動物(特にネズミ)を用いる解析が多くなります。皆さんの理解を得ながら、より大規模に実験動物を扱うことが可能となれば嬉しいなと思っております。