有機化学では、炭素が六角形に結合している平面であるグラフェンのうち、一部分を「ナノグラフェン」として活用する研究が多くあります。
これまでのナノグラフェンは、有機溶媒に溶けるようにして解析を可能にする「置換基」によって構造が覆われているものが多く、そのことにより、うまく集合体としての物性が出ないという課題がありました。そこで、研究を通じて、窒素が入ると溶けるようになることを発見し、「置換基フリーナノグラフェン」を開発しました。この物質を利用して、光機能性材料としての応用を見据えて研究を進めています。
最終的には、ナノグラフェン分子を組み合わせてグラフェンに似た構造をつくる「グラフェンのボトムアップ合成」を目指しています。
既存のグラフェンをつかって新しい材料をつくる研究は円熟しており、様々な実用がすでに見出されています。そこで、次の30年、50年で合成化学者として何ができるのかを考えたとき、より性能のよいグラフェン類似物質を精密に作ることに行き着きました。
もともとはポルフィリンという色素の分子の研究をしていましたが、その時にも溶解性の問題に向き合い、様々な工夫により溶けるようにしてきました。その後、理学研究科助教になったときに新しいナノグラフェン分子を作る研究に取り組み、置換基などがついていなくても溶けるものをつくることに成功し、物質合成の新しい方向性を見出しました。この経験から、新しいグラフェンをボトムアップで作るという考えに至りました。
一つは、有機化学の分野の常識である「分子は溶媒に溶けなくてはいけない」という発想が変わることを期待します。そのことにより、それぞれの研究に取り組む方々にとって、新しい可能性が見えるきっかけになれば嬉しく思います。
もう一つは、新しい材料の開発につながる可能性があります。物質合成から材料へ応用を進める多くの場合に、高分子化を必要とします。面白い物性が出ている新しい分子も、高分子化が難しいことで応用へといたらなかったものがあります。置換基をなくすことで高分子化できる道が開けたら、そうした研究に立ち返るチャンスが生まれるでしょう。
基礎物性として面白い分子が、さらに材料としてもよい機能を出せるための橋渡しをしたいと考えています。
開発した物質について、機能・性能を測っていただける材料科学の分野の方のご協力が必要です。とくに、性能の数値があがらなくても、まずは可能性を調べてみるという姿勢で一緒に取り組んでいただけたら嬉しく思います。
現在でも基礎的な物性はわかりますが、全くの新しい物質にはさらに高度な理解が必要です。そして、有機化学者がつくる高分子化した物質には、面白い物性があっても置換基で覆われていたりして、測定の邪魔になったりしています。そうしたことから、すぐに結果がでなくても一緒に挑戦をしてくださり、電子の動きを深くみるなど、“物性科学者”として細かいところを本質的に調べ、性能のでるデバイスへとつながる可能性を一緒に探求していただけたら心強く思います。