炭素繊維複合材料(CFRP)の薄層化の研究をしています。福井県工業技術センターとの共同研究では、炭素繊維の束を薄く均一に広げた状態で樹脂フィルムを貼り合わせて100ミクロン以下の厚さのシートにし、積層した構造の材料をつくりました。CFRPはき裂が出やすく、また繊維に対して樹脂が弱いため割れるとき裂が進むという課題があります。そこで、樹脂はエポキシ樹脂に替えてナイロン(PA6)を用い、さらに薄層化技術によってき裂を起こしにくくしました。また金属の箔をいれることで、金属の延性の効果によって損傷を抑制する研究も行っています。
CFRPの応用範囲を広げるために始まった自動車のプロジェクトがきっかけです。やるからには初期損傷の発生や破壊時の脆性といった課題を解決する必要があり、薄層化に取り組みました。薄層化の中でも、ナイロンなど新しい樹脂を使ったり金属とのハイブリッドを試みたり、今までにない方法にチャレンジしました。また、CFRPの積層の自動化の技術によって、手間のかかる積層工程の作業性が改善されることが期待され、再び世界的に注目を集める材料になったことも背景の一つです。
今まで使えなかったものにCFRPを使えるでしょう。CFRPの損傷発生に関する課題から、飛行機でも自動車でも金属を置き換える材料になるためのハードルが高いという課題がありました。また自動車では、材料を変えると生産工場も全て変える必要があるため、なかなか普及が進みません。近年は軽量化が求められるドローンでも活用が進んでいますが、例えば災害救援など有人の空飛ぶクルマが開発され、より丈夫で安全な性能への要求が高まると研究をいかせます。様々な分野で新しいメーカーが生産体制を導入し活用が進むことで、成形メーカーが成長し、自動車への活用にも繋がると思います。
新しくCFRPを使いたいという声が必要です。CFRPの認知度に比べて、技術についてはあまり理解が進んでおらず、本格的な活用はまだこれからという状況です。素材や特性について認知が進み、使われる頻度が上がることが必要だと思います。自動製造の技術に関して日本は遅れていますが、薄層化の技術では可能性があります。日本の技術を維持するためにも、素材の魅力を伝え、実験の結果をしっかり世の中に公表していくことで、使われる機会が増えることを期待しています。