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有機触媒で新薬のタネになるような有用物質を合成したい!

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有機触媒を利用した立体制御的な分子変換。従来の金属触媒は非常に強力に反応を触媒するアクセルであるのに対し、有機触媒の作用は穏和なアクセルである。そのため、多点での活性化を必要とするが、逆に言えば「多重アクセル」として加減の調節が可能な触媒と言える。

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有機触媒の多点活性化を利用した不斉合成の例。有機触媒による基質の多点活性化のコンセプトに基づき、複素環化合物の不斉合成法や、それらを応用した分子変換反応を開発している。レアメタルなどを必要とする従来の金属触媒に比べ、より低資源・低量で効率の良い触媒反応を実現した反応事例もある。

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複素環の合成反応として知られる分子内ヘテロマイケル付加反応は、反応が非常に速いため、従来は立体制御が難しかった。穏和な酸と塩基を同一分子内に持つ有機触媒により、水素結合を多点で複合的に利用することで、さまざまな複素環化合物の不斉合成を達成した。

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軸不斉化合物の合成。2点の活性部位を持つ二官能性有機触媒が、効率的な軸不斉化合物の合成にも有効であることを示した反応例。

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合成中間体として重要なカルボン酸誘導体に対する不斉付加反応は、その立体選択性(不斉収率)が低い課題があった。そこで基質と触媒をしっかりと固定できるよう、共有結合を含む多点活性化を利用した結果、立体選択性が大きく向上した(カルボン酸誘導体と第三級アミン触媒が付加脱離反応して発生するα,β-不飽和アシルアンモニウム中間体を利用し、環化反応を設計した)。これにより1,5-ベンゾチアゼピンなどの合成を効率化した。

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これまで触媒として用いられてこなかった官能基に注目し、新たな触媒開発も進めている。トランスシクロオクテン(TCO)はその一つで、分子の歪みにより炭素–炭素二重結合の高い触媒活性や不斉触媒になる性質を生み出す。また、置換基を導入することで反応場を精密に設計することができ、優れたデザイン性を持つ。

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TCO誘導体の触媒機能を初めて見出したハロ環化反応。炭素–炭素二重結合(オレフィン)がハロラクトン化反応を効果的に促進する触媒活性部位になること、さらにその触媒機能には八員環の歪み(トランスシクロオクテン骨格)が必須であることが明らかになった。

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どんなタネ?

有機触媒を用いて鏡像異性体の一方を選択的に合成する不斉合成を行っています。有機触媒は金属触媒に比べると活性が弱い触媒ですが、ゆえに複数の反応点で同時に基質を活性化させることができます。反応性の高い物質はコントロールが難しく、低温で反応速度を遅くしたり、触媒を効かせるため多量に加えたりする必要がありました。これに対し、多点で相互作用する有機触媒を設計することで、室温付近の穏和な条件下、少量の触媒量で、ワンステップで選択性の高い反応経路を開発。医薬品に多用される複素環をはじめ、種々の不斉合成を実現しています。

なぜ研究を始めた?

きっかけは、ある鏡像異性体の一方が偶然にも得られたことでした。それを検証する中で、立体制御が難しいと考えられてきた分子内ヘテロマイケル付加反応に有機触媒による多点活性化が有効であることを見出しました。さらに、この独自概念を別の反応にも展開しました。現在は医薬品の候補として重視される四置換不斉炭素を持つ分子の合成に挑んでいます。また、新しい活性部位の開発は有機触媒の可能性を広げます。そこで、今まで活性部位として利用されてこなかった官能基(炭素–炭素二重結合)に着目し、新たにTCO(トランスシクロオクテン)触媒の開発に成功しました。TCOは生体適合性が高いので、生体分子変換にも応用したいです。

なにを変える?

医薬・農薬など生理活性物質への応用が期待されます。鏡像異性体の一方が薬に、もう一方は毒になることもあるように、その作り分け(選択性)は極めて重要です。これまでに、複素環化合物の他にも、結合軸の回転によって立体配置が変わる軸不斉化合物や、代表的な医薬化合物の1,5-ベンゾチアゼピンなどを従来よりも効率的に合成することに成功しています。既存の薬をより安く作れれば、より多くの人に届けることができます。また、今まで不可能だった不斉合成を実現することで、新たな医薬品などの創出に貢献していきたいです。

なにが必要?

一つは、まだ実現できていない反応を可能にするため、触媒活性部位に注目しながら、触媒のバリエーションを増やしていきたいです。TCO触媒については計算科学の専門家と共同で触媒活性の詳細についても解析を進めています。大事な要素が分かれば、それを次の触媒設計に生かすことができます。一方、すでに有機触媒によって合成できた有望な化合物のライブラリーがありながら、それを十分に活かしきれていない面もあります。合成して終わりではなく、有効性などを評価するため、製薬会社や薬学系・バイオ系の人たちとの連携を強化していきたいです。

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INTERVIEW
桂産直便
有機触媒で新薬のタネになるような有用物質を合成したい!

2021.12.16

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寺村 謙太郎
工学研究科 分子工学専攻