放射性廃棄物や原発事故で生じた燃料デブリの化学特性を理解し、より安全な処分につなげるため、実験と理論の両面で研究しています。特に注目しているのは核燃料物質であるウランなどのアクチノイド元素です。これらが地下水に移行した際の挙動を理解するため、水への溶解性、水中での沈殿物や錯体の形成などについて調べています。例えば、沈殿物を形成する粒子が小さいほど溶解性が高まることなど明らかにしています。10万年単位と言われる長期的な地層処分、その安全評価に必要な信頼性の高い予測モデルの構築を目指しています。
放射性廃棄物(核のゴミ)への問題意識がありました。福島第一原子力発電所の事故後は、燃料デブリについても本格的に研究を始めました。いずれも放射性物質の環境中でのふるまいを理解することが、まず重要だと考えています。放射性物質の中には、水溶液中で4価の酸化状態をとる金属イオンとして振る舞うものがあり、多様な反応を示します。そこが科学者としては興味深いところです。核燃料物質を扱える実験施設は国内でも数か所しかないため、貴重な実験結果を蓄積し、なるべく多くの知見をもとに、適切な処理法を検討できるようにしていきたいです。
最終処分場の候補地の検討では、その土地や地下水についての文献調査や実地調査が行われます。基礎研究で得られた知見から放射性物質の環境中でのふるまいを予測できれば、これら調査にも役立つと考えています。また、高レベル放射性廃棄物は、放射性廃液をガラスに溶かし込んで固めますが(ガラス固化体)、燃料デブリでは、その化学的安定性によっては「手を加えない」という選択が最善となる可能性もあります。燃料デブリを外に取り出して何らか手を加えることに伴うリスクと、その作業による安定化の効果を天秤にかけて評価できるようにしたいです。
実験室レベルで模擬的に作られる燃料デブリの挙動は徐々に明らかになってきましたが、実際の燃料デブリはさまざまな成分が不均一に混在する巨大な集合体です。燃料デブリだけでなく、放射性物質の環境中でのふるまいにおいても、基礎研究とのギャップを埋めていくことが今後の課題となるため、現場との懸け橋になってくれる人の協力が得られたらありがたいです。また、原子力工学の全般において社会との対話が重要となっています。自然科学のアプローチをさらに進める一方で、研究から見えてきたことをどのように情報発信していくのかも考えていきたいです。