無機のセラミックス材料について、特に複数のアニオンを一つの物質内で組み合わせることで、革新的な新物質の開発を目指しています。現在は、光の吸収率を高めるために電子状態を制御する方法を研究し、ビスマス酸ハロゲン化物という物質群の光触媒を開発しています。結晶構造をブロックに分けて考えることで、あたかも積み木を組み立てるような構造設計が可能です。また、理論計算によってブロックの組み合わせや積み上げる順番がどのように電子状態に影響をしているかを調べています。
最近は、新規酸ヒドリド化物の合成、遺伝的アルゴリズムを用いた物質探索、新規フッ化物イオン伝導体の開発といった研究にも手を広げています。
「同じ酸ハロゲン化物なのに、なぜ、こちらは白くてこちらは黄色いのだろう?」という素朴な疑問から始まりました。黄色い方はより性能のよい光触媒であったため、その違いに関心をもったのです。
無機材料の電子物性は、光の吸収の仕方などが多彩で面白いです。また、有機化学は精密に設計・制御し、反応させることで欲しい材料を比較的つくりやすいのに対して、無機材料であるセラミックスは構造や組成を制御するのが難しく、そのチャレンジが面白いと感じています。新しい構造を一つ作るだけでも挑戦であり、その上で物性を思い通りにしようという難題に挑むことにやりがいがあります。
これまで第一原理計算によって高精度にビスマス酸ハロゲン化物の電子状態を求めること自体は可能でしたが、具体的に構造のどの部分がバンド構造を支配しているのか、逆に望ましい電子状態にするにはどのような構造が理想的か等、明確な設計指針を得ることが出来ませんでした。この研究で、静電ポテンシャルが重要であることなど、電子状態を決めるメカニズムの手がかりが見えてきました。また固体化学の設計手法として、超伝導体では物質の構造をブロックとして捉えて設計する試みはありましたが、光触媒材料に取り入れたのは初めてです。
合理的に新しい物質を設計する。その究極のゴールは、自由自在に狙った組成・構造の物質が合成できて、自分の狙った物性が出てくるということです。それを目指して、新しい理論を取り入れて物質探索をしながら実験を重ね、研究を進めていきたいと考えています。
現在も、異なる分野の方々との対話からヒントを得ていますが、さらに新しい概念を取り入れることが必要と考えます。
特に、錯体化学、有機化学の方は自在に配位子の制御などをされているイメージがあります。そのような分野の方々とお話し、設計のコンセプトをセラミックス材料の合成にも取り入れることができれば、思いも寄らない新しい合成方法が見つかるかもしれません。実際に、最近ではセラミックスの合成に有機物質を反応剤に使う研究も増えてきています。我々は、固体の扱いは慣れていますが、有機材料に関しては門外漢ですので、他の化学分野研究者との共同はこれから重要になってくるかもしれません。