海底地すべりが引き起こす津波の発生メカニズムについて研究をしています。
2024年1月1日の能登半島地震では、震源から離れた富山湾で地震発生3分後に津波が観測され、これは海底地すべりの影響が強く疑われました。そこで海上保安庁の海底地形データの差分解析で海底が削られていることを確認した上で、富山大学や金沢大学の研究者と行った水中ドローンによる現地調査によって、今回の地震によって海底地すべりが発生したと結論づけました。また、船から採泥機をつかって地盤のサンプルを採取し、やや固結した粘土質の地盤が地すべりを起こしたことを解明。さらに2025年7月には、北海道水産学部が所有する練習船「おしょろ丸」に乗船し、能登半島全域の海底地盤の調査を行うとともに、数値シミュレーションや模型実験を通じ、津波発生の基本的なメカニズムを検証しています。
こうした、フィールド調査、実験、シミュレーションによる研究によって得られた海底地形や土質の情報を統合し、最終的には“海底地盤のハザードマップ”をつくりたいと考えています。
地盤工学、土質力学の分野で、地盤について、どれくらい強度があるか、地震が起きた時の地盤災害のリスクなどを専門に研究してきましたが、そのうちに、陸上から海底まで範囲を広げて、海の中の地盤に関心をもつようになりました。
ここ10~20年、海洋国家である日本の周辺海域には、天然ガスの主成分となるメタンハイドレートやレアメタルが豊富に分布するとして注目が集まっています。メタンハイドレートは、低温・水圧が高い環境で生成される物質であり、深海に多く存在しますが、採取する場合、まだ海底の地盤の状態がよくわかっていないという課題があります。学生の時はメタンハイドレートを中心に資源開発に興味があり、さらに洋上風力発電に掛かる海底地盤調査技術も視野に入れ研究をしてきましたが、その間に技術の発展により海底に人が少しずつアクセスしやすくなり、研究環境が整ってきました。そうした背景から、海底地盤災害、海底での地すべりなどを中心のテーマに据え、研究を進めることにしました。
日本は海洋国家であり、水産資源が豊富なため、漁業を生業にしている方々も多くいらっしゃいますが、例えば海の中で地すべりが起きると、津波が起きるだけでなく、定置網が流されたりカニ籠がつぶれたりします。さらに海底に住んでいた底生生物が戻ってくることはなく、漁業に大きな影響が出ます。また、メタンハイドレートといった海洋資源開発に加え、洋上風力発電では海底にケーブルを設置する必要があり、そうした分野でも海底の環境の情報が必要になります。
海底地すべりと津波のリスクを明らかにし、海のハザードマップをつくることで、まだどうなっているか分かっていない海底の情報を、多くの方々に届け、貢献したいと考えています。
現在困っていることは、海底の地盤に関するデータが極めて少ないことです。洋上風力発電やエネルギー資源開発の際には候補地で調査がされますが、民間企業のため情報が外に出ることは多くありません。一方、研究者が自分たちで船を出して調査をするには、多くの時間とお金がかかるため、海洋研究開発機構(JAMSTEC)のような大きな研究機関でないと難しいのが現状です。
現在、水中調査、海洋調査船、サンプルを採取しての物性調査、模型実験を別々の調査として行っていますが、それらを同時に実施することができれば海底地盤に関する研究が進むと考えています。例えば一つの水中ドローンで、撮影もして、針貫入試験のような土質調査もその場でできると、一度に情報を取得できます。ロボット工学といった専門外の知見が必要ではありますが、『海底地盤を、みる(カメラ)、きく(音波)、さわる(原位置での土質試験)』のような探査機器があったら嬉しく思います。さらにそうして得られたデータは公開し、沿岸部の自治体をはじめ必要な方々がアクセスできると、社会的なインパクトも大きくなるでしょう。