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SEED
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経済的・社会的な波及効果を統合評価モデルで分析し、貧困や格差の拡大を助長しない気候変動対策を実現したい。

RESEARCHER
社会のカーボンニュートラル実現に向けては、化石燃料から脱却し再生可能エネルギーを導入して、温室効果ガスを排出しない社会を目指すとともに、大気中からCO₂を除去する方法も必要である。また、エネルギー消費の観点では省エネと電化が求められる。現在の国際目標である気温上昇を1.5~2.0℃に抑えるには、早い段階でCO₂排出をゼロにし、その後は大気中からCO₂を除去して負の排出を実現しなければ達成できない。さらに、CO₂大規模排出量削減の経済的な影響を評価することも重要である。

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気温上昇を2.0℃に抑える目標を達成するためには、その費用はおよそGDP比3%(2050年)程度がかかるといわれており、例えば、温暖化対策として5%の消費増税を受け入れられるかといった課題にもつながる。 研究では、エネルギーシステムや食料システムの転換、水素やCO₂除去等の技術開発、そうした気候変動対策による貧困、飢餓等を含む経済的・社会的影響、また生態系への影響といった観点から、様々なシナリオにおける分析を行っている。

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CO₂を削減し、気温上昇を抑えるには、長期的に気候を安定化させる視点が必要である。世界の正味CO₂排出量の排出経路を見定め、いつまでにどの程度削減するかを考えることが重要であり、早期に削減を進めるのか、後半にCO₂除去を増やすのかなど、シナリオごとの検討が求められる。また、エネルギー供給や需要について、経済性やさまざまな技術的選択肢の特徴を理解し、どのような社会を目指すかを検討する必要がある。

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エネルギ―供給と需要のオプションと考慮事項。

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たとえば、近年の研究では、化石燃料の完全廃止に向けたエネルギーシステム転換と、その機会・課題の定量的な分析を行い、本研究の結果、2050年までの化石燃料完全廃止には、発電電力量を従来の脱炭素化シナリオ比で約1.6~1.8倍に拡大する必要がある一方、CDR(二酸化炭素除去)依存を低減できるといった利点も明らかとなった。

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別の研究においては、CO₂ゼロ排出を達成する新たなシナリオとして、直接空気回収・水素を用いた合成燃料であるe-fuelの活用による炭素回収利用(CCU)を提案。さらに、水素エネルギーの普及について分析を行い、電化・バイオマスも組み合わせた包括的なエネルギー政策が重要であるとも結論づけるなど、様々な指針を研究成果から提案している。 (画像は、2050年までの脱化石燃料化により、CDR(二酸化炭素除去)依存を低減できるといった利点が明らかとなった研究。)

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気候変動対策が途上国に大きな影響を与え、また貧困を助長することが明らかとなった。パリ協定に基づく将来の気候変動緩和シナリオを分析し、それらが貧困にどのように影響するかを調査した結果、2030年と2050年で、気候緩和策をとらない場合に比べてとった場合では、それぞれ6,500万人、1,800万人の貧困人口を増加させる可能性があることが分かった。また、その原因の分析により、ネットゼロ排出の達成には、途上国も排出削減を進めつつ、国際的な資金援助によって負担を軽減することが、現実的な道筋であることを示した。

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さらに、脱炭素化による世界180か国の貧困や格差への悪影響を定量化し、対応策として期待される炭素税収の有効性について検証を行った。結果は、炭素税収を貧困層に還元することで多くの国で貧困の撲滅、格差の縮小を実現できる可能性が示される一方で、アフリカ諸国ではそれでは不十分であることが分かった。

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気温上昇を抑えるには、CO₂だけでなく、メタン(CH₄)、亜酸化窒素(N₂O)などの温室効果ガスも削減する必要がある。これらはCO₂のようにゼロにすることが難しく、技術だけでは削減量に限界があるため、ライフスタイルの変化も求められる。農業は温室効果ガス排出の約20%を占め、日本では水田由来のメタンも多い。農業・土地利用の変革や、肥料・畜産由来の排出を減らす技術の導入が基本的な戦略となる。

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そこで、持続可能で健康な⾷⽣活、⾷品廃棄物の削減、⽣産性の向上を組み合わせた「⾷料システムの⼤転換」を2050 年にかけて進めた場合の地球環境と経済に与える影響について評価を行った。その結果、⾷料システムの⼤転換によって、農業・⼟地利⽤由来の温室効果ガス排出量の増加を半減させる効果や、気候変動緩和策に起因する⾷料価格上昇の抑制効果など、地球環境と経済の両⾯の効果を得られることが明らかになった。

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大気中のCO₂を除去する方法にはさまざまな技術があり、それぞれの効果や課題を評価する必要がある。方法としては、第1にCO₂を地下に直接貯留する方法、第2に植物を利用して固定・回収する方法、第3に工学的に大気中から除去して地下に貯留する方法、第4に森林を増やして有機物として固定する方法、第5に風化を促進し、何億年とう時間軸で、岩石に吸収され海に流れていく量を増やす方法がある。これらは近年、注目されている研究テーマである。

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例えば、バイオマスを利用し、トウモロコシなどの植物がCO₂を固定し、またそれを原料に製造したエタノールを燃料として利用し、さらにエタノールの製造や燃焼から発生したCO₂を回収して地下に貯留するというアイディアがある。これは一見素晴らしい方法に思えるが、一方で、実現には大規模な農地が必要となり、世界の農地の20~30%をエネルギー用途に利用する可能性がある。これれにより、食料価格の上昇や食料安全保障、貧困や飢餓、生態系への影響が懸念される。

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気候変動緩和策が将来の飢餓リスクに与える影響についても、包括的に評価している。これまで、気候変動によって作物収量が低下することが懸念されるため、緩和策には、それを回避し飢餓のリスクを下げる効果があるといわれてきた。一方で、バイオマスによる農地利用等により食料生産が抑えられ、飢餓のリスクを上昇させることも指摘されている。さらに、大気汚染が軽減されることで、作物収量が増え、飢餓リスクが減少することも期待されるが、この効果はまだ十分に評価がされてこなかった。

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そこで本研究では、6つの世界農業経済モデルを用いて、2050年までの世界の飢餓リスクへの影響を分析し、大気汚染の軽減が有益な効果をもたらすことを明らかにした。しかし、それでも世界の飢餓リスクが増加することも確認されたため、食料供給への波及効果を考慮して緩和策を検討する必要がある。

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統合評価モデルでは、エネルギー、経済、農業、土地利用など主要な温室効果ガスを扱い分析できる。このモデルに対して、私たちの研究では、飢餓や貧困など社会的影響も評価できるように経済的な原理のモジュールも組み込み、新たなモデルを開発した。一般的なモデルが、例えばアフリカは北アフリカ、南アフリカなどの地域単位で扱うのに対し、私たちのモデルでは、世界全体の約180か国単位、また所得階層ごとに影響を推定できるシミュレーションを実現。データは世界銀行や各国独自のデータを基に統一的にモデル内で扱えるように調整した。

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さらに、現在、国際的な気候変動対策や政策提言が進んでいる中、その科学的な根拠は、先進国である一部の地域の研究機関に偏っているという指摘がある。そこで、より公平で実効性のある気候政策の基盤を築くために、「オープンで透明性の高い国際プラットフォーム」の提案も進めている。

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どんなタネ?

気候変動への対応と脱炭素社会の実現に向けて、シミュレーションによる研究を進めています。現在、国際社会では、産業革命以前に比べて1.5℃から2.0℃に気温上昇を抑えることが目標とされています。そのためには、化石燃料の退出、再生可能エネルギーの導入、省エネと電化などエネルギー消費の変化、またCO₂削減や除去等、様々な取り組みが必要です。こうした各条件の様々なシナリオについて評価します。また物理的な側面だけでなく、マクロ経済の変化、食料価格・エネルギー価格の上昇やそれによる貧困や飢餓リスクの変化といった社会経済的な影響、生態系や大気汚染への影響といった波及効果を含めた分析を進めています。手法としては、エネルギー、農業、経済、土地利用など、主要な温室効果ガスをすべて扱える統合評価モデルと呼ばれるシミュレーションを用います。

同分野の欧米の競合チームにはない私たちのチームの特徴は、世界180か国を対象に、国ごとの所得層まで考慮しながら、飢餓や貧困の推定を可能にするといった改良を行ったことです。

これにより、社会の中でも特に所得が低く脆弱な人々が被る被害などに焦点を当てることができるようになりました。脱炭素化は社会全体を巻き込んだ変革が必要となりますが、その時にそういった社会的な弱者のことを常に考慮しながら政策運営を進めていくことの重要性を発信し続けています。

なぜ研究を始めた?

私は高校生の頃から、気候変動問題を解決するためには、人間社会や経済システムそのものを変えていかなければならないと考えていました。そのため、大学でもこうした問題に取り組める研究分野を選びました。研究を進める中で、特に大きな影響を受けたのがリーマンショック後の社会の状況です。不況のなかでも豊かな人々は比較的影響を受けにくい一方、格差が広がっていく現実を目の当たりにしました。「温暖化対策だけを優先してよいのか」「目の前の貧困を解決することが重要ではないか」という葛藤から、弱い立場の人々を蔑ろにしてはいけないと強く考えるようになりました。

その経験から、工学を専門とする研究者として、気候変動に対する研究を通じて、貧困や飢餓といった社会的課題にもアプローチしたいという思いが、現在の研究につながっています。

なにを変える?

気候変動への対応として、例えば、大規模なバイオマス利用によってCO₂を固定しようとすると、農地が転用され、食料価格が上昇し、結果として途上国の貧困や飢餓を助長させる可能性があります。飢餓を減らすための気候変動対策が、さらなる飢餓を生むことになるのです。私たちの研究は、こうした波及効果を定量的に示すことで、公正で現実的な政策づくりに貢献することを目指しています。国際社会でも、近年は積極的な温暖化対策によって、ともすれば理想的なシナリオばかりが主張される傾向にあります。そうした国際的な交渉の場で、貧困が増大する可能性があるという私たちの研究成果がとりあげられることもありました。

また、私たちの研究では、水素を後押しする内容の論文を発表しています。そうした成果は、政策のみならず、材料工学や化学等、水素製造の技術開発を促進する根拠となり、また、電気自動車の利用等、日々のライフスタイルや意思決定に影響を及ぼし得ると考えています。

なにが必要?

若い研究者の力が不可欠だと考えています。超学際的に進めている我々の研究には、多様な分野の専門的な知見と多くの時間が必要です。次世代を担う優秀な若手研究者が、この研究テーマに関心をもち、積極的に多く参加してくれることを期待しています。

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